横浜ゴムの国内工場の一つ、今年操業70周年を迎えた三島工場――市街地に位置し、敷地面積が限られた同工場は、どのようにして環境への配慮や生産性の向上を行っているのか。現地で三島工場の取り組みを取材した。
TPM活動を通じ、海外のマザー工場に
同工場では10インチから15インチの乗用車用タイヤを中心に生産し、その9割が国内向けに出荷されている。従業員数は2015年末で914名。3班2交代制で年間347日操業している。操業を開始した1946年以来、絶えず改善を重ねた設備は、敷地面積11万2000平方メートルと比較的小規模だが、1日最大で約4万本のタイヤを生産する能力を持ち、面積あたりの生産量は非常に高い。
これは同工場が推進するトータルプロダクトマネージメント(TPM)活動によって、部署ごとのサークル活動を通して提案された業務上の改善点を適宜検討し、最適化を進めてきた結果だ。
2016年は「止める・呼ぶ・待つ」から改善し、競争力のある独自の商品を供給する”ことを基本方針として、有資格者による的確な指示系統の整備とともに、改善に向けた積極的な提案を行いやすい職場環境を整えている。
日常的に活発な提案が行われ、他の部署と連携、協力をしながら検討。生産工程の都合で変更が難しい部分以外は随時実施する。また、些細な事でもレポートを書いて提案し、掲示して共有する。これにより作業者の安全に配慮しながら、無駄のない動線と機材の配置、それによる省人化など、限られた敷地面積を最大限に活用する工夫が随所に見られる。
各機材に掲示されている作業の仕様書も色や文字の大きさを調整し、夜間の作業でも見間違い、見落としがないように工夫されている。
また従業員の技術向上のため、工場内に各種講座とそのためのスペースが設けられている。素材の位置調整や品質検査など、生産にはどうしても人の手を必要とする部分があるため、熟練した技術を身につけた従業員が増えることは、そのまま品質の向上に直結する。
これらは生産効率の向上だけでなく、企業課題として取り組んでいる自然環境への配慮にもなっている。例えば不要時にも稼働していた機材を、作業量に合わせて段階的に稼働させるなどの改良は、CO2の排出量や工場排水の削減にも繋がる。
生産力の向上と自然環境の両立は、長年同工場が取り組んできた重要な課題だ。工場周辺は近年さらに宅地化が進み、マンションも立ち並ぶ。そのため工場地帯より高い配慮が求められる。同工場は長年の植樹や水質管理、生物多様性に対する保全活動や防災などの地域貢献を通じて、地域とも連携し、密着した関係を築いている。
こういった活動をすべて掲示し、互いにモチベーションを上げることで、従業員同士のチームワークの向上にも繋がる。
このようなTPM活動は他の工場でも活発に進められており、年に一度、全国の工場から改善点などを集めたTPM大会が開催されている。大会によって各工場が互いに持ち寄った優れた点を共有し、ノウハウが横に広がっていく仕組みだ。
また、国内の工場は、海外の工場に対してはマザー工場としての位置づけを持っている。そのため、より優れた情報を共有し、各工場で実行することによって、海外工場により良い作業環境がフィードバックされる構造だ。
自然環境に対する配慮を兼ねた省エネ、省人化による生産効率と品質向上のノウハウで、三島工場は今後もマザー工場としての存在感を増していく。