TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は、乗用車用スタッドレスタイヤの新商品「OBSERVE GIZ2」(オブザーブ・ギズ・ツー)を8月1日より発売開始した。6年ぶりのリニューアルとなった新商品は、刻々と変化する冬の路面に対応できるようアイス性能をはじめ様々な性能を引き上げたことが特徴だ。2月に同社が北海道テストコースで開催した試乗会で性能の進化を確かめた。
変わる冬の路面環境
新商品「OBSERVE GIZ2」の開発コンセプトは、“変わらない安心感、路面環境に対応した新世代スタッドレス”――これまでの開発では特に凍った路面に対する性能向上に主眼が置かれていたが、今回は様々な冬路面へ対応した点が大きな特徴だ。
気象庁の調査では、ここ数年は温暖化の影響もあり、真冬の札幌市でも日中の最高気温が0℃を上回る日が増加傾向にある。さらに、同社がユーザーニーズを調べたところ、「アイス性能」「スノー性能」に次いで「シャーベットへの対応」が求められていることが分かったという。一口に冬道と言っても実際の走行シーンでは、凍っている道や雪道のわだちもあれば、シャーベット路や氷が溶けたウェット路面も出現する――刻々と変化する路面に対して、これまでより幅広く対応することが求められるようになったと言えそうだ。
このような環境変化の中で誕生した新商品は、気候変動に伴う季節要因の変化を重要視して“日本の冬”に求められる性能を追求。その結果、従来品(OBSERVE GARIT GIZ)と比較してアイス制動性能は8%、ウェット性能は18%の短縮を実現している。
さらに今回は、ゴムの経年変化による氷上での摩擦力低下抑制も達成した。新品から4年が経過した時点の性能低下は従来品の半分程度に抑えられている。
技術統括部門管掌の守屋学執行役員は「新商品の性能は従来から飛躍的に高まっており、2世代分の性能向上だ」と自信を示した。
氷にいかに密着させるか
性能向上を実現するため、「OBSERVE GIZ2」はコンパウンドやパターンを一新。REタイヤ開発部の島一郎部長は、「従来品のアイス性能を向上しながら経年性能の維持、性能の低下を抑えるために独自技術を採用して性能の改善を図った」と話し、「最大の特徴はアイス路面との密着性、経年性能の維持のために『NEOゲル』を配合した新コンパウンドだ」と力を込める。
新しいコンパウンドは、氷の表面にできるミクロ単位の水膜を瞬時に吸水するとともに、柔軟性を保ったゴムがアイス路面へしなやかに密着する。また、同社の独自技術「鬼クルミの殻」を配合したゴムが氷を引っ掻き、路面を確実に捉える。この殻は氷より硬く、アスファルトより柔らかいという特性を持つことから引っ掻き効果を発揮するという仕組みだ。
ウェット路面やシャーベット路面では、シリカを増量して配合したゴムがグリップ力に寄与する。タイヤが低温な状態でも柔軟に接地し、高いグリップを実現できるという。さらに、新開発の「持続性密着ゲル」を配合してアイス性能をより長い期間維持できるようになった。
トレッドパターンは非対称を採用したこともトピックだ。設計にあたっては、CAE(Computer Aided Engineering)とAI(人工知能)を融合した同社のタイヤ設計基盤技術「T-MODE」のスノー予測技術を活用。シミュレーションで「最適な形状を短時間で設計、検討することができた」(島部長)という。
アイス、スノーで体感した“差”
テストコースの外周路でスノー性能、アイスドーム内で氷上ブレーキ性能を確かめたところ、カタログデータと同等以上の差が表れた。
圧雪された直線や積雪が残るカーブなどを走行してみると、適度な剛性感があるため、安定性が高まっている印象だ。従来品と比較してハンドルを切り出した時の応答性も良好で運転が楽しくなる。
試乗会に参加したモータージャーナリストの斎藤聡さんは「コンパウンドが進化しており、グリップが大きく向上している。運転すればすぐに違いが分かるレベルで、バランスが良いタイヤになっている」と太鼓判を押す。
アイス路面でも新旧商品に大きな違いが見られた。氷が溶けてわずかに水が浮いているという厳しいコンディションだったが、新商品は滑り出しがスムーズで、車体がまっすぐに進む。時速30kmからフルブレーキで停止した際も1~2mほど制動距離は短くて済む。
ハンドルを握ってくれたモータージャーナリストの藤島知子さんは、「街中を運転しているシーンを想像してほしい」と話す。例えば、交差点の100m前でブレーキをかけた際に8%向上というのは8mも手前で止まることになる。凍結している路面で対向車とすれ違う際も自分の思い通りのラインをたどることが、安心感につながる。
技術力に定評があるトーヨータイヤが満を持して投入した「OBSERVE GIZ2」。同社では「冬性能はもちろん、全ての性能を底上げした」と絶対の自信を示す。どのような天候でも、冬の様々な路面環境に対応できるという点はユーザーにとって大きなメリットになるだろう。
「どんな環境でも効果を発揮」
「ここが強みという部分は無い。それが一番良いタイヤだ」――トーヨータイヤが9月9日にオンラインで開催した「OBSERVE GIZ2」の技術説明会の中で、開発を担当した商品開発本部REタイヤ開発部の谷口二朗リーダーは、「何かに特化するような性能向上があれば良いわけではない。新商品はどんな環境でも効果を発揮するタイヤに仕上がっている」と自信を示した。
また、「冬性能だけではなくドライやウェットといった性能も向上させることを考えていた」と開発当初を振り返り、その上で「難しいことにトライするのは分かっていた」と当時の心境を語った。
ユーザーが最終的に商品として享受できる高い性能は、技術者たちの挑戦の結晶ともいえるだろう。