「安全セット」に込めた想い 静岡県の杉浦タイヤ商会
静岡県湖西市のタイヤ専業店、杉浦タイヤ商会は2月に「空気充填安全セット」の販売を開始した。この製品は乗用車用タイヤやバン用タイヤなどで空気充てん作業を行う際に安全囲いとして使用できるもの。万が一のバーストに耐えられる強度を備えたポリエチレン製の素材を袋状に加工したネットと、タイヤから離れたまま空気を充てんできる3mのホースが付いたエアゲージがセットになっている。一般的に使用されている金属製の安全囲いと比べてコンパクトに収納可能なほか、安価で提供できるところが特徴だという。同社代表の杉浦進一氏は「空気充てんは危険な作業だということを様々な業種の方に認識して頂きたい」と開発の理由を話す。
静岡県タイヤ商工協同組合に加盟する杉浦氏は、組合が実施しているタイヤ空気充てん特別講習に講師として参加することもある。これまで安全作業の重要性を訴えてきたが、その知識と“対”になる安全囲いなど設備の設置がさほど進んでいないことが課題だと捉えていた。
特に、タイヤ専業店以外のガソリンスタンド、自動車整備工場やカーディーラーといった兼業チャネルの事業者では安全囲いが設置されていることは多くないようだ。そうした状況下、使用する側が「導入しやすい設備が必要」――これが開発のきっかけとなった。
また、価格面でもハードルはあったという。杉浦氏は「我々、専業店が使用している安全囲いは比較的高額なものが多い。一方、兼業チャネルでは起きるかどうか分からない事故のために数十万円する機材を設置することは厳しいのかもしれない」と指摘する。
そこで今回、販売を始めた「空気充填安全セット」は機能を絞り込み、誰でも購入しやすい製品を目指して開発に着手。素材や形状など試行錯誤の末に、ネット部分は袋状に仕上げた。使用しない時は畳んでコンパクトに収納できるため、大きなスペースが不要なことも特徴。価格は税込4万9500円とリーズナブルな設定となっている。
実際の作業は、ネットの開口部反対側のカラビナフックを使用し、チェーンなどで建物の柱などに固定。その上で、修理済みのタイヤをネットの開口部から入れ、フックで開口部を閉じる。その後、付属のエアゲージの先端のエアチャッククリップをタイヤのエアバルブに取り付け、十分に離れた位置で空気を充てんする。400kpa以上のタイヤでは使用できず、乗用車用タイヤを主なターゲットとしている。
製品化にあたり、杉浦氏は各地区のタイヤ商工協同組合へのサンプル配布を行っている。組合が行うタイヤ空気充てん特別講習会で実際に使用してもらうなど、参加者へ認知向上を図る考えだ。
また、組合員向けには卸価格での販売も始め、組合員の専業店を通じて、それぞれの顧客へ販売する仕組みを整えた。杉浦氏は「組合に加入していない販売店がメリットだと思ってもらえれば、組織の拡充にもつながっていくかもしれない」と期待感を示す。
「毎年のように発生している作業事故を少しでも減らしたい」と話す杉浦氏。その上で、「タイヤの交換整備作業は危険を伴うことを広く認識してもらい、危ないからこそきちんと安全対策を取って頂くことが目標」と力を込める。
「こんな製品があったらいいな」と思いつくことは誰にでもあるかもしれない。ただ、そのアイデアを具現化するまでには大変な努力が必要だろう。少しでも安全な社会の実現のために投じられた一石。その意義は小さくない。