名古屋市港区に本社を構えるタイヤ専業店、中部タイヤセンターは2019年6月、愛知県北西部の一宮市に同社にとって3カ所目となる営業所を開設した。これまで本社と西部営業所(海部郡飛島村)をベースに事業を展開してきたが、機動力を一層高めて顧客ニーズへ応えるための新規出店となる。林鋼司社長にその背景と中部タイヤセンターとして今後の展望を聞いた。
同社は1969年に設立し、1978年には港区に隣接する海部郡にも営業所を開設した。それ以降、2つの拠点で事業を展開してきたが、創業50周年を迎えた2019年に一宮営業所を開設した。
林社長は「物流需要が盛んな小牧市にも近く、このエリアにもお客様が増えていたため、15年ほど前から構想はあった」と話す。同社は高い技術力に加えて、業界に先駆けて24時間対応のレスキューサービスを行うなど、機動力の高さが大きな武器だ。
ただ、本社地区から一宮、小牧エリアに出向くと片道30~40分を要するため、特に繁忙期は人員のやり繰りに苦労するケースもあったという。「このエリアの作業量が増える一方で、出張作業の準備も含めてやはり拠点が無いと難しい」と判断し進出を決めた。
一宮営業所はドライブスルーで入出庫が可能なトラック用のピットが2レーン、乗用車用ピットは1レーンでライトトラックの入庫も可能なリフトを完備した。各種整備機器や倉庫の出し入れに使用するエレベーターなど最新の設備を導入して動線を確保。効率的かつスタッフにとって使いやすい環境を整えた。さらに、広々とした顧客の待合スペースは明るさと快適性を重視し、待ち時間に利用できるリラックスチェアも揃えた。
営業所のスタッフは柴山幸一所長を筆頭に現在7名。開設当初は本社から人材を呼び寄せてサポートしつつ、新しく現地で採用したスタッフは本社で一定期間研修するなどしていたが、開所後2年以上が経過した現在は軌道に乗ってきたようだ。
一宮から小牧、さらに岐阜県の一部もカバーするようになり、「元々いたお客様が定着し、食品配送を手掛ける運送会社など、お付き合いできる台数なども大分増えてきている」と手応えを語る。
少し離れた地域にはタイヤ専業店やメーカー系列の直営店も少なくない。そうした中で同社の強みを聞くと、「やはり現地に出向くという部分。当社はこれまでもそうやってお客様を増やしてきた。店舗が完成したからといって全てのお客様が来店して頂けるのではない。必要であればこちらからお客様のもとに行く」――フットワーク良く自ら動く姿勢、強みは今後も変わらず、この拠点を軸に機動力を一層高める方針だ。
将来の成長へ向けて社員研修にも注力
長年のノウハウや技術力を武器に、顧客から信頼と評価を得てきた中部タイヤセンター。現在、3拠点合計で社員数は36名に拡大したが、全てのスタッフが同じクオリティで高いサービスを提供することを目標に掲げている。
こうした中で林社長が最優先課題の一つとして取り組むのが人材育成だ。「コミュニケーションは非常に重要だが、人数が多くなり、チームワークが希薄になってしまう面もある」と懸念を示す。その上で、「仕事へのモチベーションや向き合い方は世代により異なり、また人それぞれで本当に難しい」とも話す。
人と人との繋がり――目に見えないものだが、そこから得られる価値は大きいはずだ。ただ、自分の考え方や価値観を押し付けることはしない。時代によって変化していくのは当然だと強く認識しているからだろう。
こうした状況下、3年前から外部の講師を招いた研修会もスタートした。ベテラン層と若手社員など4つのグループに分けて、コミュニケーションの取り方や自らの強みや課題、成長を見つめ直すような内容になっているという。
研修は年に6回ほど行う。「私からすると3歩進んで2歩戻るような感じで、進歩の度合いは早くない」と笑うが、「中部タイヤセンターで得られる何かを見つけてもらいたい」と期待を込める。
経費負担は少なくないが、今後も研修は継続していく。「成果を求め過ぎてしまうと継続はできないし、継続しなければ伝わっていかない。仮に当社を退職しても自分の立ち位置を見直すという意味で本人にもプラスになるはず」
こうした取り組みは会社の将来を見据えたものだ。「形の無いものに対して投資しているが、いつか形になってくれればと考えている。それがいつか会社・個人の成長として跳ね返ってくるかもしれない」
林社長自身、今年60歳となり、長年苦楽をともにしてきた経営幹部の一人もあと2年で定年を迎える。「当社は家族経営ではなく、共同経営というスタイルを取ってきた。それも引き継ぎながら次の世代にバトンタッチしていければ」と今後を見据える。
これまで顧客のニーズに応え、ユーザーの安心安全を支えるタイヤ専業店として発展し、独自のポジションを築き上げてきた中部タイヤセンター。そうした中でも林社長は「愛知という地域に恵まれている。他の地域は新品タイヤをはじめとして価格が大きく崩れている。他県のような流れに巻き込まれると我々は厳しくなっていく」と危機感を示す。さらに、「廃タイヤの処分コストもこれ以上高騰すれば本当に頭の痛い問題となる」と現状を話す。
その一方で、業界全体では業務のデジタル化が進み、販売会社などの営業所が減少傾向にあると見ている。そうした動きの中で「当社はある程度の量の在庫を持ち、お客様へお届けできるようにしている。強みを上手く循環させ、生き残っていく」と決意を示す。
オープンして間もない一宮営業所も現在の倉庫は既に手狭になっており、拡張を検討しているという。さらに、将来は4カ所目の拠点を新設する可能性もあるという。
会社としての事業成長、次の世代を見据えた価値の継承。林社長の奮闘はもうしばらく続いていきそうだ。