住友ゴム工業の国内最大級の生産拠点である白河工場(福島県)は、地域に貢献する持続可能な工場を目指し、従業員が活き活きと働ける環境づくりの一環としてワーク・ライフ・バランスの改善や女性従業員の活躍推進に注力している。同工場の取り組みについて、面川寿彦工場長と総務課の秡川弥生課長代行に取材した。
風通しの良い職場で働きやすく
白河工場は、2021年11月時点で約1600名が従業員として働く住友ゴムグループのフラッグシップ工場だ。運営方針に「地域密着」を掲げ、“あるべき姿”として、「地域・福島県へ更なる貢献」「魅力ある会社づくり・人づくり」「安定した雇用と拡大」などを設定し、職場環境の改善に積極的に取り組んでいる。
面川工場長は「1974年の操業開始以来、約半世紀この地域に支えられてきた。これから『100年工場』を目指し、いかに持続的に運営を行っていくかが重要だ」と展望を語る。持続可能な操業を行うため、「地域に愛される工場」「将来を支える地元の若者が魅力を感じて働きたいと思えるような工場」を将来像として示す。労働人口の減少など、取り巻く環境が大きく変わる中、従業員が活き活きと働くことができる場をいかにして構築していくかが大きなテーマとなる。
より良い職場であろうとする姿勢は、住友ゴムグループ全体の方針でもある。働くことで満足感を得られ、従業員の成果によって会社も成長する健全な関係を築くため、処遇制度や研修体制といった様々な施策を実施している。
そのうちの一つが1時間単位で取得可能な時間休で、2017年4月に導入した。病院への通院や子供の学校行事への参加などに幅広い世代が活用しているという。また、有給休暇の付与日数の増加や取得の推進にも努めている。
柔軟に時間を活用し、適切な休暇を取ることはワーク・ライフ・バランスに寄与する。就労により経済的な自立を目指しながら、健康で豊かな生活のための時間を確保し、多様な働き方や生き方を選択できるようになること――従業員がバランス良く働ける環境を整えることは、異なるニーズを持つ多様な人材の確保につながり、企業としての持続可能性にもつながるだろう。
ワーク・ライフ・バランスで意欲を向上
白河工場でも仕事と生活の調和を推進しており、2020年1月に福島県から「福島県ワーク・ライフ・バランス大賞」を受賞している。育児や介護に関して法定を上回る制度が多いことや、女性従業員による改善活動、働き方改革の取り組みが評価されたことが受賞の理由だ。
また、2021年4月には「優秀将来世代応援企業賞」を受賞した。これは17県が加盟する「日本創生のための将来世代応援知事同盟」から授与されるもので、子育て支援や、女性・若者への支援をはじめとする独自性や先進性のある取り組みを積極的に行う企業を表彰している。
白河工場が実施する働き方改革の中で評価を受けた活動の一つが、各課の代表を集めた「チームKAERU(カエル)」の「4NO(ノー)!宣言」だ。チーム名は「早く帰る」や「考え方を変える」といった活動内容に由来する。毎週水曜日の会議や残業の禁止、毎日17時以降から翌8時までのメールの禁止、7時より前の出社禁止をルールとして明確化し、ワーク・ライフ・バランスの改善に取り組んだ。
特に、7時前の出社は、24時間稼働する製造現場ならではの課題だったという。以前は業務の進捗状況が気になるため早朝に出勤している社員もいたが、約半年のトライアル期間で好評を得たことで2021年から正式に適用を始めた。面川工場長は「目標を掲げて、従業員が仕事をすることで意識改革や効率改善につながった」と成果を話す。
女性の活躍推進の観点からは、工場の全女性従業員によるチーム「きらり★S-Girls(ガールズ)」の働きやすい職場づくりが高く評価されている。
秡川課長代行は「風通しが良く、活き活きと働くことができる、コミュニケーションが良好な職場――そういったところが“働きやすい職場”になる」と説明する。2015年3月に発足したこのチームは、各職場を超えた横のつながりによって、業務品質やコミュニケーションの向上に取り組んできた。
白河工場で働く女性従業員は多くなく、「他の女性従業員とのコミュニケーションの機会」や「上司であっても男性には話しにくいことを相談する場」が持ちづらいといった声があった。それらをきっかけに、女性チームによる活動がスタートした。
その中で「語る場」では、全ての女性従業員から一人ひとりの考えや困りごと、希望などを聞き取り、課題を抽出した。ここで挙がった意見が、ビジネスマナー講習、女性による女性のためのハラスメント勉強会、女性のための相談窓口の開設といった、働きやすさを向上する具体的な施策につながっている。
また、女性が抱える困難を解消したことで、結果として男性従業員の作業負担軽減に寄与した場面もある。
白河工場ではトラック・バス用のタイヤも生産しており、高さが1メートル、重さは50kgを超えるような大型のタイヤであっても、これまでは人力で回転や反転し検査を行っていた。この工程に、作業をサポートする回転制御検査台を導入したところ、負荷が大幅に改善。体力的に担当するのは難しいと考えられていた女性が無理なく実施できるようになっただけではなく、男性が同じ作業をする場合も作業効率が向上した。
さらに、工場内では従業員の平均年齢が上がりつつあり、作業負担の軽減は年配の従業員にも役立っている。
現在、社会全体で少子高齢化が進み、労働人口が減少することで人材の確保が難しくなると予測されている。体力に関係なく、誰もが負担なく行える作業を増やすことは多様な人材の受け入れやすさに大きく寄与することになるだろう。負荷軽減のための設備には一定のコストがかかるが、「労働力を確保しながら将来につなぐ職場づくりとして、投資に見合った効果がある」(面川工場長)という。
白河工場では今後も女性の活躍をサポートする取り組みを継続し、働く女性従業員の割合を増やすことを目標としている。ただ、これまでは女性の応募者が多くないというのが実情だ。一方で、既に働いている人たちの活動や成果を発信していくことで、従来のイメージを変えていくことがこれからの目標になる。
面川工場長は「施策として女性従業員を増やしていけば、女性の働きやすい風土や環境はおのずと醸成されていくのではないか」とした上で、「女性の意見が通るような環境にしていきたい」と展望を示した。
出産や育児といったライフイベントで仕事の継続を諦めざるを得ない女性は多い。このような課題は、今までの就労スタイルが女性の生活とマッチしないことから生じてきた面もある。ワーク・ライフ・バランスの尊重は女性を含めた多様な人材が働きやすい職場を作り出すことに加え、働く人の日々の充実感や心身の健康、能力の発揮、人材の定着にも寄与するものだ。“働きやすさ”は雇用の場としての持続可能性を高める――この取り組みが、100年工場を目指して地域貢献を続ける白河工場の力の源となっていくだろう。