フォークリフトなど産業車両用カテゴリーで「CAMSO」(カムソ)ブランドの本格展開を始めた日本ミシュランタイヤ。グループ内にカムソ・ジャパンを立ち上げて事業拡大に取り組む中、交換用タイヤの供給を担うのは、このカテゴリーにおいて国内有数のノウハウを持つ丸中ゴム工業(愛知県名古屋市)だ。カムソ・ジャパンの佐野恒彦社長は「丸中ゴム工業の力を借りて一緒に成長していきたい」と将来像を描き、丸中ゴム工業の虻川淳悟社長は「両社が協力してシェア向上に取り組んでいく」と意欲を示す。
豊富なノウハウと製品力で攻勢へ
丸中ゴム工業は1981年にフォークリフト用タイヤの販売から事業をスタートした。虻川淳悟社長は「当社は先代の中西英晴(現代表取締役)が一から始めた会社。中西自身、産業車両用タイヤメーカーなどで勤務した経験があり、そこで培った知見を生かしてスタートした」と話す。
その後、主要都市へ営業所を設立するとともに愛知県内には配送センターを新設するなど事業を拡大。「産業車両や建設機械といったピンポイントでニーズがあり、お客様から重宝されるものを提供する」――これが同社が創業当初から大切にしてきた精神であり、強みとなっている。
そんな同社だが、従来はミシュランと直接の取り引きを行ったことはなく、これまでメインで扱ってきたブランドは一貫して「ソリディール」だった。丸中ゴム工業は1987年にスリランカのソリディアル社の日本輸入元となる。その後、ソリディアルは2010年にカナダのカモプラスト社が買収して社名をカモプラスト・ソリディール、さらに2015年にはカムソへ社名変更している。
ミシュランがカムソの買収を発表したのは2018年。カムソ・ジャパンの佐野恒彦社長は「当初、日本でどういうビジネスを行っていくのか全く分からなかった」と振り返る。
この買収は、カムソの主力ブランドを取り扱ってきた丸中ゴム工業にとっても大きなインパクトがあった。虻川社長は「不安があった反面、ミシュランという大きなグループとコラボレーションすることで、シナジーが出てくるという期待もあった」と話す。
その後、1年以上をかけて日本ミシュランタイヤ、カムソ・ジャパンと打ち合わせを重ねていく中で、不安は払拭されていった。「ミシュランは販売店との関係を大事にしている会社だと感じられ、信じていけば、我々にもっと大きな世界を見せてくれるのでは」という思いへつながった。
虻川社長はカムソ製品の強みについて「圧倒的なコストパフォーマンスの高さがある」と話す。産業車両用タイヤのユーザーは非常にシビアで、「稼働時間やコスト管理などが徹底して求められ、安かろう悪かろうでは次からは使って頂けない。カムソは製品の研究開発も継続して行っており、品質の高さも伴っている」と力を込める。
近年、販売を伸ばしているのはノーパンクタイヤだ。国内のフォークリフト用タイヤの需要はほぼ横ばいの中、ノーパンクの比率は増加しているという。特に採石場や産業廃棄物処理場などで使われているホイールローダーではこれまで主流だったニューマチックから変更することにより、パンクのリスクを減らすことができるためニーズが高まっている。
さらに、丸中ゴム工業では重点課題の一つとして「フォークリフトディーラー頼みの営業活動からの脱却」を掲げている。これは言い換えれば販路の拡大だ。
例えばリースでフォークリフトを扱っている事業者へカムソを提案することで、採用につながるなど成果は表れている。今後、全国に工場がある製造業や食品メーカーなどへ直接アプローチして新規採用を目指す。
両社は一層の事業拡大へ向けて協力体制を強化する考えだ。カムソ・ジャパンの佐野社長は「長年の経験がある丸中ゴム工業の力を借りながら一緒に成長していく」と期待感を示し、虻川社長は「まだまだやれる余地は残っている」と話す。
数年先には丸中ゴム工業としてミシュランブランドの製品を手掛ける構想も出ている。顧客のニーズに応じてカムソ、ミシュランの両ブランドを提案すれば、アプローチの幅はより広がる。
国内の産業車両市場は成熟し、乗用車などと比べると大きな変化の波は少ないという。それでも徐々に電気自動車が増え、また安全性を重視する傾向も強まっている。そうした中でタイヤにもこれまでとは異なるニーズが出てきており、ミシュランの傘下に入ったことでカムソの製品力はより高まっていくことが期待される。
虻川社長は「ミシュランと関係を持たせてもらったことは大きなチャンスとなる。旧態依然としたやり方ではなく、新しくチャレンジしていきたい」と強い意欲を示す。
豊富なノウハウを持つ丸中ゴム工業とカムソがタッグを組むことで新たな市場形成が進むかもしれない。
丸中ゴム工業のノウハウ 膨大な組み合わせに即対応
国内で40年以上、産業車両用タイヤに特化したビジネスを行ってきた丸中ゴム工業の強みは車両とホイール、タイヤを一元管理する仕組みだ。
フォークリフトはメーカーや年代、型式により、ボルトや径の違いなど様々なホイールタイプ、タイヤがありそのパターンは数百にも及ぶという。そうした中、同社は長年の情報を蓄積したデータを保有しているため、顧客からの要望にスピーディに対応できる。
虻川淳悟社長は「例えば20年前の機種であっても、お客様から『この車両に合うものを』と言われれば即座に適合したホイールをセッティングして出荷できる。お問い合わせがあった時、『一旦持ち帰って調べます』ではなく、データを参照してすぐにご回答できる。これが当社の資産であり強みとなっている」と自信を示す。
また、圧倒的な種類と数のホイール在庫を抱えていることも同社の特徴だ。東海市にある自社の配送センターには既に生産停止しているような中古のホイールも保管し、細かい部分まで対応できる。この豊富なデータと在庫があるからこそ、同社は多くの顧客の信頼を勝ち得てきた。
ユーザーはほぼ全てが法人で、車両を可能な限りフル稼働させることは生産面の命題だ。タイヤ交換によって余計なダウンタイムを発生することは極力避けなければならない。稼働を中断しないためにはアッセンブリのタイミングも鍵となるが、同社では予めセッティングした状態で出荷し、ユーザーは交換後にすぐに稼働できるためロスが極めて少なくなる。
虻川社長は「フォークリフトを数十台稼働させている会社であっても、1台しかお持ちでない方でもお客様の要望は常に稼働させること。タイヤ整備のために半日、1日ストップさせるわけにはいかない」とその重要性を話している。