オートバックスセブンは「ジョイフル車検・タイヤセンター」6拠点を運営していたジョイフル車検・タイヤセンターの全株式を取得し、2021年4月にBACS Boots(バックスブーツ)として完全子会社化した。2021年9月には屋号を「AUTO IN(オート・イン)車検・タイヤセンター」に改めて運営を開始している。サービス展開の背景や今後の展望をオートバックスセブンの北川幸弘執行役員BtoB事業担当兼ホールセール事業推進部長とBACS Bootsの川崎博代表取締役社長に取材した。
ホームセンターとのシナジーで利便性を
――「ジョイフル車検・タイヤセンター」を子会社化した背景や意義は。
北川氏「我々オートバックスは、これまでカー用品店として営業してきました。その歴史の中でも、会社の設立から常に大切にしてきたものがタイヤとオイル、バッテリーです。ここ20年ほどは車検もあわせて一番大事なビジネスモデルとして取り組んできています。
今回、様々な縁がありお話を頂き、当社グループが最も大切にしている商品をメインに扱う業態であり、親和性があったことから株式の譲渡を頂きました。
また、現在は車両技術が進歩し、一般ユーザーが自分で車を整備する機会は減少してきています。ユーザーが安心して車を利用するにあたり、タイヤや車検は引き続き重要な部分になると考えています。
お客様が安心して車社会で生活できるようにするのがオートバックスとしての使命であるため、そういった分野でもともに取り組み、ユーザーとの接点を増やしていきたいという思いもあります。
『ジョイフル車検・タイヤセンター』は車検やタイヤ、オイル、バッテリーを中心に扱っており、当社の競合店であったと思います。ただ、利用する客層が異なっており、オートバックスとしては新たな顧客との接点が増えるのではないでしょうか。
屋号はオートバックスと異なる業態であることや、顧客から見て車関係であることが分かりやすいこと、従業員が発音しやすい名称であることなどを考慮し『AUTO IN』としました」
――「ジョイフル車検・タイヤセンター」にとってオートバックス傘下となるメリットは。
北川氏「親会社だったジョイフル本田は関東圏でホームセンターを15店舗ほど展開しており、そのうち『車検・タイヤセンター』があったのは6店舗でした。
おそらく整備事業に関する知識や経験、運営内容やノウハウなど含めてこの規模だったのではないかと推測しています。
我々が参画することで、さらに店舗数が増加する可能性もあると思いますし、『さらに発展させるために』という意味もあったのではないでしょうか」
――今後の課題や展望は。
北川氏「『ジョイフル車検・タイヤセンター』が確立した事業モデルではありますが、オートバックスグループに入って頂いた新しい業態ということになります。まずは事業基盤を盤石にすることが最優先になります。
社内の人事制度なども含め、様々な形で事業基盤を明確に確立した上で『ジョイフル・車検センター』の事業モデルを継承しつつ、我々が持っているノウハウを融合しながら基礎を構築していきたいです。
そして、将来的には全国に店舗拡大していきたいという思いはあります。この業界の国内のマーケットは、カー用品店やタイヤメーカーなどが展開するタイヤショップ、自動車整備工場、カーディーラーといった業態が多いのではないでしょうか。
一方、車検やメンテナンスサービスを実施しつつ、タイヤやオイル、バッテリーなどをメインで扱うような業態は少なかったと思います。そういった点で、出店のチャンスはあると考えています。
一番の課題は認知度です。オートバックスは全国展開しているため認知度は高いのですが、『AUTO IN』はまだ知らないユーザーがほとんどです。
あわせて、もともとホームセンターの『ジョイフル本田』の敷地内のみで展開していたため知名度もあまり高くなかったことから、認知度を向上し、顧客を増やしていくことが必要です」
――「AUTO IN車検・タイヤセンター」となることで、どのような変化がありましたか。
過去に利用して頂いていた顧客を裏切るのは一番良くないことだと考えていますので、“変えない”ということを従業員にも説明しています。
サービスとして、軸になるのは車検とメンテナンスです。それに付加してタイヤやオイル、バッテリーなどの販売や交換も行っています。
当社の強みは、車検に集中していることです。オートバックスグループでは多種多様なカー用品を扱っていますが、『AUTO IN』は車検やメンテナンス関係に注力するビジネスモデルになっています」
――「AUTO IN」ならではの特徴は。
北川氏「一番の特色は、お客様が待っている間に買い物ができるという点だと思います。スーパーマーケットも入っている『ジョイフル本田』が近接しており、周囲には衣料品店なども立地しています。待ち時間に買い物や他の用事を済ませられるということが強みになっています。
また、ホームセンターでカー用品を販売しているため、売り場で購入した商品を当社で取り付けるといった作業を行うこともあり、競合店とは異なる利便性や特色になっていると思います。
ホームセンターの方からも我々を紹介して頂けるなど、連動もできている点が他社には無い部分だと感じます。
おそらく、『AUTO IN』単体で店舗を立てても、あまり来客は見込めないのではないでしょうか。
ただ、他の商業施設の隣にあるとなると話は別になります。ユーザーも入ってきやすいですし、お互いに単体で存在するよりも相乗効果が出るのではないかと思います」
――オートバックスとのシナジーという面で期待することは。
北川氏「『AUTO IN』も全店に整備士や検査員がいますが、潤沢というわけではありません。自動車業界全体と同様に、整備士の人材不足という課題があります。
オートバックスも同じく整備人材の確保が重要になりますので、ともに行動することで整備士の方に集まって頂きやすくなるのではないかと考えています。
あわせて、オートバックスが出店していないエリアに進出し、グループ全体としての顧客獲得につなげていくことも可能なのではないでしょうか」
――「AUTO IN」としての今後の方針は。
川崎氏「今後の展開に関しては、ユーザーの利便性を高めるために新たなサービスを模索し続けていきたいです。車の磨きや洗車、清掃のようなカーケアや、車のへこみやキズの修復といった板金作業などを検討しています。
また、BACS Bootsとしてスタートしたばかりです。経営基盤の確立や基礎固めをしっかりしつつ、オートバックスセブンとも協力して店舗数の拡大も図りたいです。それに加えて、現在はホームセンターと併設していますが、様々な異業種とのコラボレーションも検討していきたいです」
北川氏「『カー用品を置かない』という部分が強みになります。『ジョイフル本田』の傘下を離れたことで他のホームセンターと協力することも検討できます。
さらに、『買い物をしている間にタイヤやオイルの交換が終わる』といった顧客の利便性という点では、大型のショッピングモールやスーパーマーケットとも親和性があると期待しています」
買い物ついでに車の整備 店舗数拡大なども視野に
「AUTO IN(オート・イン)車検・タイヤセンター千葉ニュータウン店」(千葉県印西市)は、オートバックスセブンの子会社BACS Boots(バックスブーツ)が運営する車検指定工場。AUTO INは栃木県や茨城県など関東圏で全6店舗あり、北総鉄道の印西牧の原駅のそばにある千葉ニュータウン店は最大の店舗となる。
オートバックスセブンによる買収以前は「ジョイフル車検・タイヤセンター」としてホームセンターのジョイフル本田が展開していたため、全ての店舗がホームセンターに併設されているのが特徴。整備作業や点検を行っている間でも、ユーザーは併設するホームセンターや近隣の店舗で買い物をするといった他の用事を済ませられることが大きな利便性を生んでいる。
主軸となるサービスは、車検とメンテナンスサービスで、全ての拠点で自社工場での車検時の整備や検査が可能。そのほか、タイヤやオイル、バッテリーの販売や交換も行う。
同店はホームセンターのジョイフル本田の超大型店舗(千葉ニュータウン店)の敷地内にあり、バックスブーツの川崎博代表取締役社長は「大型ホームセンターには近隣のお客様も来られるが、他県などの遠方から来た顧客も買い物のついでにAUTO INを利用している」と説明する。特に、その中でもファミリー層がAUTO INのサービスを利用することが多いという。
また、AUTO IN車検・タイヤセンター千葉ニュータウン店ではバックオフィスを設けず、顧客が訪れる受付で必要な手続きを済ませることが可能になっている点も特色となっている。ピットには車検の検査ラインのほか、約15台の車が入る整備スペースがあり他店舗の2倍ほどの規模を有する。
9月から新業態として屋号を改め展開しており、現在は経営基盤の確立を目指している。今後は異業種との連携なども検討しつつ、店舗数の拡大や新しいサービスを模索していく。