住友ゴム工業は4月22日に日本自動車研究所(JARI)の城里テストセンターで、タイヤセンシング技術「SENSING CORE」(センシングコア)の一部機能を使用したデモンストレーションを実施した。この技術は車両から得たデータを解析してタイヤや路面の状態を検知するもの。今回は滑りやすい路面を検知する「路面検知」機能の実演を行ったほか、車輪脱落事故の予防に向けた新機能「車輪脱落予兆検知」、「CO2排出量の可視化」を紹介。さらに、既に実用化しているTPMS(タイヤ空気圧監視システム)との連携によるタイヤ点検を行い、その効果を実証した。
センサー不要の検知システムで安全に貢献を
住友ゴムが独自に開発したソフトウェア「センシングコア」は、「タイヤの空気圧」「タイヤ荷重」「路面状態」「タイヤ摩耗」を検知することが可能だ。追加のセンサーやバッテリーなどが不要で、メンテナンスフリーという大きな特徴を持つ。また、車載コンピューターにインストールでき、様々な車両やタイヤに対応するほか、アップデートで検知機能を拡張することもできる。
同社は1997年から回転信号やエンジン情報を解析してタイヤの空気圧低下を検知するタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」(Deflation Warning System)を展開している。DWSはこれまで25年間で国内外の自動車メーカーに対し累計4600万台以上の納入実績を持つ。
2017年に発表した「センシングコア」はこのソフトウェアをベースに機能を拡大したことで更なる価値を提供することが可能になった。
「センシングコア」では、タイヤの空気圧低下を車輪の回転数の増加をキャッチすることで検出している。タイヤの空気圧が減ると、実際の移動量からみたタイヤの有効半径が小さくなり、車輪の回転が増えることを利用した仕組みを確立したという。
また、荷重が増えると、タイヤのたわみが大きくなることでタイヤの回転時に発生する回転変動が増大し、タイヤの振動の振幅が大きくなるという。この特性の変化を前後左右のタイヤで比較することで荷重配分を推定し、4輪それぞれの荷重を捉えている。
摩耗と路面状態の検知には、スリップ率と駆動力の関係を活用している。路面の滑りやすさにより「スリップ率が一定量増加したときに、どの程度駆動力が増加するか」といった両データの関係が変わるため、この関係を車輪速信号からリアルタイムで導出することで路面の滑りやすさを検知している。摩耗についても同様に、スリップ率と駆動力の関係を算出することで推定する。
オートモーティブシステム事業部事業部長の松井博司執行役員は「25年間のDWSの開発で培ったデジタルフィルタリング技術で、ノイズの除去や補正を行って精度良くタイヤの特性の変化を検出することを可能にした」と話す。
「前方の滑りやすい路面の検知」のデモンストレーションでは、滑りやすい路面を再現した低μ路を「センシングコア」搭載車両が走行した。離れた場所にあるモニターには検知された路面状態がリアルタイムで表示され、乾いた路面から滑りやすい濡れた路面に移動したことを自動で感知する様子を示した。また、「センシングコア」で検知した情報を受信した試乗車では、同システム搭載車両と共有した情報をもとに滑りやすい路面に接近していることを車内のモニターで警告することで効果を実証した。
危険な路面は滑りにくい路面とは異なる色で着色されており、一目で該当箇所が分かる。さらに、滑りやすい路面に近づくと、「約100m先スリップ注意」などの警告が表示され、同時に音声でも注意を促すため常に画面を注視し続ける必要はない。
今回は新たに大型車向けの「車輪脱落予兆検知」機能も発表した。この技術は、車輪速のデータからタイヤの回転ムラを検出し、通常の状態と比較することでナットの緩みを検出するもの。
デモンストレーションでは正常にナットを取り付けた状態と、手でナットを取り付けてナットが緩んだ状態で30分走行する実験を映像で紹介した。どちらの条件においても運転席のフロアに取り付けた振動計の数値はほぼ変わらないことが示されたが、「センシングコア」はタイヤの回転ムラから異常を検知し、タイヤの確認を促すアラートを表示。同社では2024年に技術を確立し、その後に自動車メーカーへの提案や車両への適用を目指す。
近年、大型車の脱輪事故が増える中、ドライバーが自分では気付きにくい予兆を自動で検知することで、事故の未然防止に貢献することが期待できる。
あわせて、これまでのタイヤの開発などで得た知見やデータを活用して開発した走行中のCO2排出量を可視化する機能も披露した。タイヤの空気圧が車のCO2排出量に与える影響を組み込んだ可視化モデルを構築し、具体的な数値を提示する機能を作成している。
AS第3技術部の朝倉健部長は「単純に空気圧のデータなどを提供するだけではなく、CO2排出量という数字に換算することでサービスを導入するメリットを感じて頂けるのではないか」と話していた。
また、今回のデモンストレーションではTPMSの使用による点検時間の効率化も実演した。通常行われている手作業での空気圧点検は1台あたり1分35秒を要したが、TPMSと連携したツールを使用した場合は23秒と、作業時間を約4分の1に短縮することを示した。ツールの使用でタイヤのキャップを外す手間がなくなり、しゃがむ動作などによる作業者の体への負担も軽減できるため、点検作業の軽労化にも寄与する。
「センシングコア」はタイヤ管理の軽労化、省力化による適正な運用や走行時の安全性の向上を支えるシステムだ。タイヤそのものに加え、タイヤから得られる情報を活用し新たな価値を提供することが、誰もが安心して安全に自動車を使える未来につながるだろう。