廃タイヤの収集・運搬、中間処理を行う黒沢産業(茨城県筑西市、黒沢善弘社長)は昨年、本社・工場を移転した。新拠点の敷地面積は以前とほぼ同じながら、最新の設備を数多く導入したことにより処理能力は9倍以上に向上。さらに、工程の自動化を進め、効率性も大きく高めた。
新工場で処理能力9倍超へ
新工場の正式な稼働は2021年4月。以前の本社・工場も同じ筑西市にあったが、数年前に大手電機メーカーが新たな拠点を設ける際に移転要請があり、自治体から斡旋された下館第2工業団地内での立ち上げを決めた。
工場の敷地面積は1万5000平方メートル。新設した社屋と工場では約40名の従業員が働く。ホイール分離機は既存の機材を使用している以外、処理機械は全て新しく導入したという。現在の主な設備は大型切断機が2台、中型切断機が2台、旧工場では導入していなかった破砕機も1台導入した。切断機には63インチの超大型建設・鉱山車両用タイヤに対応した機械もある。処理能力は12時間稼働を想定して1日あたり374トンと、従来(約41トン)の9倍以上に増強された。
黒沢社長は、「敷地の広さや現場の人数は旧工場とさほど変わらないが、増設した機械の処理能力が向上したことが大きい」と能力向上の理由を話す。
また、工場内は縦長のレイアウトが特徴で、機械上部のスペースを無駄なく活用。さらに各工程間をコンベアベルトでつなぎ、オペレーターによる手作業を極力少なく、省力化・効率化を図っている。様々な場所にセンサーを設置し、工程全体をカメラで確認できる集中管理体制も整えた。
川面正裕工場長は「一度タイヤをコンベアベルトに載せたら後は自動で流れていくようになった。管理の方法が大きく変わった」と話す。
省力化は品質の安定にも寄与しているようだ。「以前は床にあったタイヤを持ち上げていたが、そういった作業が減り、体力面の負担減は感じている。これが製品をしっかりチェックできる余裕にもつながっている」(川面工場長)という。また、破砕機は刃の交換頻度をどの程度にするか試行している段階だが、前倒しで点検・交換を行うなど独自の工夫も取り入れている。その結果、顧客ニーズに合った品質を維持し、クレームは一度もない。
従業員のアイデアで省力化も実現
この工場は従業員が中心となってレイアウトを考え、皆が使いやすく働きやすい環境を整備したという。移転の話があってから比較的時間の余裕があったこともあり、機械メーカーも含めて数十回の打ち合わせを繰り返した。黒沢社長は「皆がよく考えてくれた。1年以上が経過した今となれば、失敗だった部分もあるが、その経験が今後の糧になる」と前を向く。
工場では現在もホイールを分離する工程のリニューアルを計画しており、早ければ年内にも完了する見通しだ。この工程にも従業員の意見を全面的に取り入れることが決まっており、川面工場長は「皆楽しみにしており、色んなアイデアが出てくる」と笑顔を見せる。こうした取り組みの一つひとつが職場の活気にもつながっているようだ。
工場には同社独自の残溝検査機も導入した。現在はタイヤの溝とブランド、商品名が判別できる仕組みで、今後はセリアルも読み取れるようにシステムを進化させる。1本検知するのに要するのは約10秒。元々は輸出向けタイヤの溝とサイズを管理するためのものだったが、現在、研究が進められている新たなリサイクル技術にも応用できる可能性がある。
黒沢社長は「同じタイヤでもスタッドレスタイヤ、スタンダードタイヤ、高性能タイヤとそれぞれ材料の成分は異なるが、原材料に戻すには同一成分でなければ難しい面もあるのではないか」と指摘する。この機械を活用することで、将来のビジネス展開に大きく寄与していくかもしれない。
昨今の市場環境に関して営業部の竹河英樹部長は「コロナ禍で処理事情が悪く、排出事業者の方々にご迷惑をお掛けしているが、新しい需要家も出てきている」と話す。その上で「お客様に処理事情を説明し、当社も加盟している協同組合日本タイヤリサイクル協会の組合員とは共存しつつ、自動車解体業者などにも営業をしていければ」と展望を示す。
黒沢社長は「同業者と一丸となって業界発展のために何かできれば良い。不法投棄が無くなるような仕組み作りにも一層取り組んでいきたい」と話す。さらに新工場では見学者用のスペースも設けており、近隣の小中学生らを社会科見学に招くなど、地域貢献にも力を入れていく考えだ。