横浜ゴムは乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD 7」(アイスガード・セブン)を昨シーズンから発売開始した。今年2月6~10日には北海道旭川市の同社北海道テストセンター「TTCH」で試乗会を開催。相反する「氷に効く」性能と「雪に効く」性能を高いレベルで両立することを目指した「アイスガード」シリーズ最新モデルのパフォーマンスを確かめた。
パターンとゴムの総合力で、背反性能両立
「アイスガード7」は、横浜ゴムのスタッドレスタイヤとして第7世代となる。同社の調査では、ユーザーがスタッドレスタイヤに対して「氷上性能」「性能持続性」「雪上性能」の3つを求めていることが判明したため、「アイスガード7」は「氷に効く」「永く効く」「雪に効く」をコンセプトに開発された。
まず、氷上性能はスタッドレスタイヤを1985年に発売して以来、一貫して追求してきたものだ。「アイスガード7」でも専用コンパウンド「ウルトラ吸水ゴム」と新開発の専用パターンが相乗効果を発揮し、従来品(アイスガード6)と比べて氷上制動性能が14%向上している。さらに、氷上発進性能は15%、氷上旋回性能は7%向上した。
「ウルトラ吸水ゴム」では、実績のある「新マイクロ吸水バルーン」に加えて新たに「吸水スーパーゲル」を採用し、氷上でタイヤが滑る原因となる水膜を素早く吸水することを可能にした。
さらに、ナノレベルでは、新搭載の「ホワイトポリマーⅡ」によりコンパウンド内部のシリカを均一に分散することで、ゴムがしなやかに氷に密着するようになった。
このコンパウンドは「永く効く」性能にも寄与している。従来品で採用していた「プレミアム吸水ゴム」よりも氷上での摩擦力が高まっており、4年後も高いレベルの摩擦力を維持できることを確認したという。
また、サイプには50%摩耗時に太くなる「クワトロピラミッド・グロウンサイプ」を適用。これにより、摩耗が進んでもサイプによるエッジ効果を保つことで性能持続性を強化した。
「雪に効く」性能に関しては、雪上制動と雪上発進がそれぞれ3%向上したほか、雪上旋回も従来品と同等以上を達成している。
雪上性能を高めるためには、タイヤの溝面積を増やして雪柱せん断力を高めることが重要になる。ただ、溝面積を増やすと接地面積が減り、氷上性能が低下してしまうことが課題になってくる。
これに対し、「アイスガード7」では、“エッジ量”に着目して解消を図った。エッジ量はタイヤが路面に接する表面部分における溝の総長さを指す。溝のエッジは凹凸のある氷雪路面で摩擦抵抗を生み、駆動力や制動力に寄与するため、エッジ量を増加することが氷上性能と雪上性能双方の向上につながる。
このエッジ量の増加は、溝面積を維持しながらでも、溝を細くしたり溝の数を増やしたりすることで実現可能だ。ただ、スタッドレスタイヤはトレッドゴムが柔らかいため、単純に溝を増やすとブロックが倒れこんでしまい凍結路面に接地できる面積が減少することから、溝を適度に増加することが重要となる。
同製品の開発では、従来品を基準にエッジ量を110%から180%まで増加したテストパターンを複数作成し、評価を行った。これにより、氷上性能と雪上性能を共に向上できるエッジ量の最適値が130%増であることを見極め、製品に活かしたそうだ。
あわせてパターン設計では、イン側に傾きの角度が異なる複数の横溝を配置し、雪上の発進時と制動時のグリップ力確保を目指した。センター部とアウト部では、タイヤの回転方向に延びるジグザグ形状の縦溝を複数採用することで、コーナリング時の排雪性を高め、雪上でのエッジ効果を期待できるパターン構成とした。
さらに、「ウルトラ吸水ゴム」には、「マイクロエッジスティック」を新たに搭載。この素材が氷のほか雪も噛むエッジ効果を発揮し、雪上性能のアップに寄与している。
同社では「『アイスガード7』専用パターンと、『ウルトラ吸水ゴム』の総合力によって氷上性能との両立が難しい雪上性能の向上を達成した」と自信を示している。
変化しやすい冬道で安心提供
今回は、横浜ゴムのテストセンター「TTCH」および旭川市内の一般道で、「アイスガード7」や従来品を装着した車両を運転し、同製品の実力を体感した。
TTCH内にある屋内の氷盤試験ではトヨタ自動車の「プリウス」を使用し、マイナス10度の氷と、外気温に近いマイナス2度の氷の上で時速30kmのスピードから制動ブレーキングテストを実施。タイヤは「アイスガード7」と従来品に加え、「アイスガード7」と同じコンパウンドを使用したスリックタイヤを装着した。
3商品を比べると、やはり「アイスガード7」は両条件においてブレーキの効きが早い印象だ。また、スリックタイヤは氷への引っ掛かりがほとんど感じられず、パターンが氷上性能に対していかに大きな効果をもたらしているのかが分かる。
横浜ゴムによると、マイナス10度の氷では「アイスガード7」は制動距離が従来品を基準に10%ほど短くなり、スリックタイヤは約5%長くなるという。
「プリウス」では、総合圧雪試験路でスラローム走行も行った。「アイスガード7」は時速40~50kmほどで走っても従来品より更に思い通りのハンドリングが可能で、冬道での安心につながりそうだ。
また、トヨタ自動車のミニバン「ヴェルファイア」でも同様のテストを行い、重量のある車両とのマッチングを試すことができた。従来品と比べて力強いグリップ感があり、旋回時の軌道修正も容易に感じる。
一般道の試乗は、「アイスガード7」を装着したトヨタ自動車の「カローラ・ツーリング」で行った。旭川の市街地から旭岳ビジターセンターまでの往復を運転したが、道中には街中や郊外、山の雪道など様々なロケーションがある。
実際に走行すると、滑りやすいアイスバーンでも不安感なく操作でき、アスファルトが露出したドライ路面は夏タイヤとほとんど変わらない手応えだった。スノー路面でもグリップがしっかり効いており、場所によって路面状況が大きく変わっても快適なドライブ時間を提供してくれた。
横浜ゴムのスタッドレスタイヤ第7世代にあたる「アイスガード7」――雪量や気温、交通量などによって変化しやすい冬道で、ドライバーの安心にしっかりと寄与してくれそうだ。