日本グッドイヤーは乗用車用オールシーズンタイヤ「VECTOR 4SEASONS GEN-3」(ベクター・フォーシーズンズ・ジェンスリー)とSUV向け「VECTOR 4SEASONS GEN-3 SUV」の2商品を8月から順次発売した。同社のオールシーズンタイヤはこれまでも冬性能が市場から高く評価されてきたが、今回の新商品はそれを更に上回るレベルを実現し、また静粛性とライフ性能の大幅向上といった夏性能も高めた点が注目だ。冬と夏の2回にわたり開催された試乗会でそれぞれの性能を確かめた。
オールシーズンに新たな価値
国内市場で乗用車用オールシーズンタイヤの市場が年々拡大している。オールシーズンタイヤは夏の路面から冬の雪道まで、四季を通して使用できる全天候型タイヤ。ここ数年、多くのメーカーが新モデルを相次いで投入したこともあり、年平均で約10%の成長率を続け、今後も市場は拡大すると見込まれている。
このカテゴリーに早くから注力してきたのがグッドイヤーだ。日本グッドイヤーの金原雄次郎社長は、「1977年に世界初のオールシーズンを北米で発売して以来、オールシーズンの“パイオニア”として日本でも市場を常にリードしてきた」と話す。国内では2016年1月に「VECTOR 4SEASONS ハイブリッド」を投入してラインアップを大幅に拡大させ、「日本市場でのオールシーズンの認知度は飛躍的に向上した」と自信を示す。
また、マーケティング部の髙木祐一郎部長は「オールシーズンタイヤをなぜ日本市場で積極的に販売してきたか――新しい価値を提供するためだ」と力を込める。急な降雪があった際の安全面、季節ごとの履き替えが不要という利便性や経済性など、実際にそのメリットを感じたユーザーからリピーターは少なくないという。
消費者がオールシーズンタイヤに求める性能も変化しつつある。同社が行った調査では、オールシーズンを購入しなかったユーザーでは氷雪性能へのニーズが多かったのに対し、購入経験があるドライバーからは耐摩耗性能や静粛性、燃費性能も望まれていることが分かった。この結果について商品企画部の石田政彦部長は「冬道など各路面での高い走行性能は当たり前のものとして、長持ち性能や快適性も重要な要素となっている」と分析する。
こうした中で今回、市場投入した「VECTOR 4SEASONS GEN-3」は基本性能に快適性を加え、全ての性能を一段上のレベルへ高めた“プレミアムモデル”となる。今後は従来品「ハイブリッド」をスタンダード、新商品を上級モデルとして併売し、また新車販売が増加するSUV向けには「GEN-3 SUV」も加えてユーザーの選択肢を広げていく。金原社長は「ドライバーに新しい価値を提供できるオールシーズンは当社の戦略商品として、販売拡大を目指していく」と意欲を示す。
冬性能と夏性能を両立
「VECTOR 4SEASONS GEN-3」は、「シリーズ最高のスノー性能」「摩耗が進んでも維持する高いウェット性能」「優れたハンドリング性能」「耐摩耗性」「ハイパフォーマンスカーに相応しい快適性」が特徴となる。
主要性能はパターンの改良で進化させた。従来品と同じくV字型の特徴的なデザインだが、多くの最新技術を搭載した。大型化したサイプは雪をしっかりグリップしつつ、微細なグルーブのブレードがブロック間をお互いに支え合い、無駄な動きを抑制したという。その結果、ドライ路面でのコーナーリング性能やブレーキ性能の向上にも貢献し、安定した走りを実現した。また、ブロック剛性を高めて接地形状を最適化したことで、偏摩耗の抑制にもつなげている。
さらに、アンダートレッドにはより強い構造を採用。負荷の大きいショルダーブロックも強固にすることでタイヤの変形を低減し、優れたハンドリング性能を発揮させている。
ウェット性能を長く維持するためには、摩耗が進むと溝が広がる特殊な構造を施した。この技術は溝の底ほど幅が広くなる構造で、摩耗が進行しても広がった溝幅によって排水性を確保するもの。
これらの技術により、従来品と比較してスノーブレーキ性能は5%、ウェットブレーキ性能は8%向上したほか、ライフについては30%もの性能アップを図った。
“プレミアム”として求められる静粛性はパターンノイズで36%、ロードノイズは31%それぞれ低減した。高いレベルの快適性を実現するために、センター部に向かうほど溝が細くなるデザインを採用したほか、配列をより細分化することで路面からのピッチ音を分散させている。
なお、「GEN-3 SUV」は、同じトレッドパターンながら、剛性を高めるためにオーバーレイヤーを多層化。これによりSUVの車高と車重に対応している。
雪道での安心感と高い静粛性
試乗会は2月に長野県にある女神湖特設コース、8月には千葉県のロングウッドステーション周辺と、2回に分けて開催され、雪道での走行性能と夏タイヤとしての仕上がりを確認した。
まず、雪道の試乗コースで新旧モデルをそれぞれ装着してスラローム走行やブレーキング性能を試してみた。コース上は雪が固まっており、もし夏タイヤならコントロールが難しいような状況だが、オールシーズンタイヤは想像以上に路面をグリップしてスムーズに発進・停止する。スピードを上げてスラローム走行を行ってみるが、グリップ力は失われず、まるでスタッドレスタイヤを装着しているのと同じような安心感を得られる。これが新商品だと一層強く感じられる。操舵感が高く、しっかりとした手応えがあるため、クルマをドライバーの意思通りに動かせる。
一般道では勾配のある雪の坂道やシャーベット状の交差点も走行した。恐らくスタッドレスタイヤを装着しているであろう周囲の一般車両の流れに合わせられるか若干不安があったが、オールシーズンタイヤでも挙動がブレるようなことはなく、確実に路面を捉えてくれた。
8月は夏タイヤとしての性能をチェックする機会を得た。特に意識したのは新商品のセールスポイントにもなっている静粛性だ。雪道にも対応できるとはいえ、年間を通してみれば、夏タイヤとして使用するシーンが多いオールシーズンタイヤ。その快適性はどの程度のレベルなのか――。
試乗車の中には電気自動車もあり、当然ながら車両の静粛性は非常に高い。また、国産スタンダードカーやプレミアム輸入車など様々な車両で走行してみたが、どのようなクルマにもマッチし、まるでコンフォート系夏タイヤのような快適性を実感する。乗り心地もマイルドでその完成度に驚かされる。
また、今回は計測器を用いてウェット路面での制動距離を比較するプログラムも用意されていた。時速70kmからフルブレーキをかけて停止するまでの距離を比較したところ、新商品は従来品より平均で1mほど短く止まれることを実証した。
オールシーズンタイヤの“パイオニア”が自信を持って投入した「VECTOR 4SEASONS GEN-3」。より高い性能を有した“プレミアムオールシーズン”として更なる市場開拓につながっていきそうだ。