TOYO TIRE セルビア新工場が稼働 地産地消活かし、市場拡大へ

シェア:
カテゴリー: レポート, 現地

グローバル生産体制の最適化へ

セルビア工場
セルビア工場

 「セルビア工場を開設したことにより、空白エリアが解消された。グローバルタイヤ生産供給体制の充実が図られ、ターニングポイントに入った」――TOYO TIRE(トーヨータイヤ)の清水隆史社長は12月15日にセルビア工場で開いた会見でこう述べ、「新工場を軌道に乗せ、成長へつなげる」と決意を示した。

 セルビア新工場は同社にとって欧州エリア初のタイヤ生産拠点となる。グローバルでのタイヤ需要は堅調に推移する中、「日本、北米、中国、マレーシアの生産体制では、世界の需要に追いつけなくなるという懸念があった。世界地図を広げて供給体制を考えた時、空白となっているのが欧州だった」(清水社長)と工場進出の背景を話す。

 同社の欧州市場での販売量は年間約400万本。これまで日本とマレーシアの工場から1カ月以上かけて船で運び、仕向地によっては関税も大きな負担となっていた。一方で現地に生産拠点を構えることで、中東やアフリカ市場も含めてリードタイムは大幅に短縮され、関税面でも有利に働く。関税と輸送費だけを考慮しても宮城県の仙台工場から輸出するのと比べて3割のコスト低減が見込まれている。

セルビア工場で生産するタイヤ
セルビア工場で生産するタイヤ

 工場は昨年7月に一部稼働を始め、今年下期には500万本のフル生産体制が整う。さらに、工場には拡張の余地があり、今後の需要動向によっては増産投資も検討する。

 また、同社では欧州での地産地消を進めるとともに主力の北米市場に向けてもコスト競争力のある商品を供給していく計画だ。清水社長は「フルに機能を発揮して、存在価値の高い工場に成長させていく」と意欲を示す。

 その上で、グローバルでの生産体制も見直す。日本やマレーシアの工場では欧州向けに活用していた設備に余力が生まれるため、高付加価値タイヤ生産のための増強を進め、各市場でも地産地消を進める。それによって、「それぞれの工場の本来のキャラクターを活かしていくことができる」(清水社長)と今後を見据える。

低コストで高品質なタイヤを生産

 新工場はセルビアの首都ベオグラード市から北西約50kmに位置するインジア市の工業団地にある。敷地面積は60万平方メートルで、13~22インチの乗用車用、SUV用、ライトトラック用タイヤを生産する。フル生産時の従業員数は約580名を見込む。

(左から)守屋学取締役、井村洋次取締役(トーヨータイヤセルビア社長)、清水隆史社長、光畑達雄取締役、栗林健太執行役員(トーヨータイヤホールディングスヨーロッパ社長)
(左から)守屋学取締役、井村洋次取締役(トーヨータイヤセルビア社長)、清水隆史社長、光畑達雄取締役、栗林健太執行役員(トーヨータイヤホールディングスヨーロッパ社長)

 井村洋次取締役(トーヨータイヤセルビア社長)は「工場は最新の生産システムを導入した。生産管理など工場経営を効率化し、スマート工場として工程の見える化を図った」と説明する。

 他の海外工場と異なるのはTOYO TIREの次世代タイヤ製造技術「A.T.O.M」ではなく、従来工法を取り入れながら高精度・高生産性を実現した点だ。これにより、コストパフォーマンスに優れた高品質な製品を供給できる体制を整えた。

 成型工程をはじめ、多くの設備は欧州メーカーから調達した既存のマシンを採用。設備の開発コストを抑えつつ、同社の独自性を加えていく手法で、「これを使いこなしていくことでA.T.O.Mの進化にもつなげていく」(同社)という。

 欧州向けに展開する高性能タイヤは、転がり抵抗とウェット性能をより高いレベルで両立することが求められる。そういったニーズに応えるため、混合工程には2階建てのゴム練り機を設置し、難易度が高いコンパウンドの加工に活用している。また、材料工程や成型工程では多くのセンサーを配置して部材のプロファイル、貼り付けの精度を連続して測定するシステムを構築した。これにより、“どこで何が起きているか”といった生産の“見える化”を実現して全体の流れを管理できるようになった。

 また、各工程間の運搬作業を自動化した点も大きな特徴だ。成型を終え、加硫工程に運ぶのは全て機械。予めセットされたプログラムによって、コンベアベルトから決められた加硫機にセットされる仕組みになっている。

 さらに、1月末には自動倉庫も稼働する予定。オーダーを出すだけで自動で目的のタイヤを運び出すシステムで一層の効率化につなげる。工場の担当者は「この工場ではいかにコストを抑えて大量生産できるかが鍵になる」と話していた。

量ではなく、販売の質を上げる

 コストと品質を両立したタイヤを欧州市場でいかに拡販していくか――栗林健太執行役員(トーヨータイヤホールディングスヨーロッパ社長)は「量を追うのではなく質と中身を大切にしたい」と強調する。清水社長も「値段を下げれば量は売れるが、それではコストを下げた意味がない」と話し、同社が「重点商品」と位置づけるハイパフォーマンスタイヤやオールシーズンタイヤなど一定の利益率が確保でき、市場で強みを発揮するプレミアムゾーンの販売に注力する考えだ。

 近年、欧州市場で同社製品の評価は高まってきているという。これは工場に先駆けて2019年に開設したR&Dセンターでの取り組みが成果として現れたといえる。従来ネックとなっていた供給面での課題は解消され、品質もより向上する中、今後はいかにブランドポジションの構築を図っていけるかが重要になりそうだ。

工場敷地内でウェット、ノイズを試験 開発の効率化へつなげる

セルビア工場のテストコース
セルビア工場に隣接するテストコース

 セルビア工場に隣接したテストコースは昨年9月から稼働を始めた。同社が工場とテストコースを同じ場所で運用するのは初めて。敷地内には1690mの周回路と720mの直線コースがあり、ウェットグリップ性能と車両通過時のノイズ測定が可能となっている。現在ドライバーは現地で採用した2名体制で、宮崎の試験場で1カ月間の研修を行ったという。

 騒音テストは4つのコーンに集音マイクを付けて、時速80kmで通過した際にタイヤから発生する音を測るもの。また、ウェット試験は水深1mmの路面に時速80kmで進入し、時速20kmに減速するまでの制動距離を測定する。いずれもISOで定められた評価基準で、欧州の認証をクリアできているかどうかを確認する。

 また、タイヤの転がり抵抗性能試験は工場内にある設備で実施しているという。欧州市場向けタイヤの主な性能試験は工場敷地内でほぼ完結でき、開発期間の大幅な短縮につながっていくことが期待される。


[PR]

[PR]

【関連記事】