脱炭素化社会の実現に向けての〝過程〟
ストレス要因減らし運転の楽しさが増す
本紙はこのほど、ハイブリッド車(HV)であるマツダ3ファストバック20Sプロアクティブ・ツーリングセレクションと、ホンダレジェンド・ハイブリッドEX・ホンダセンシングエリートの2車種に乗る機会を得た。モータージャーナリストの瀬在仁志さんがそのハンドルを握る。ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーター、この二つの動力を備えたHVに乗りながら、CASEがドライブの楽しさにどのような影響を及ぼしていくのか、レースドライバーとしての経験を踏まえレビューしてもらった。
100年に一度という大きな変革期のなかにあるクルマ。それをもっとも強く象徴するのがCASE――コネクテッド(通信機能を有しさまざまなデータとつながるクルマ)、自動運転、シェア&サービス(カーシェアリングとサービス)、電気自動車の頭文字からとった造語――だ。そのCASEに自動車メーカーやタイヤメーカーをはじめ、通信事業者などさまざまな企業団体が業種の垣根を越えシステムの開発に取り組む。
めざましい勢いでCASEが進むなか、将来のカーボンニュートラル実現を見据え、欧州連合(EU)は21年、HVを含むガソリン車の販売を2035年以降禁止するという方針を打ち出した。それを受け、欧州の自動車メーカーはクルマの電動化(EV)を急加速させている。
「カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みであるのは間違いない。ただ、一足飛びにEV戦略を進める背景にはライバルである日本のメーカーがHVに強いことが関係しているのでしょう。同じくEV路線を強力に推進する中国企業とは意味合いも市場の性格も違います」と、瀬在さんは解説する。
欧州の動きに対し、日本の自動車メーカーのスタンスは〝マルチパスウェイ〟だ。目的地までの経路は複数ある、ということを自工会は表明した。HV、外部電源が利用可能なプラグインハイブリッド(PHEV)、バッテリー式のBEV、それに水素を燃料とする燃料電池車(FCEV)。それぞれのメーカーが独自の技術を磨いていくことでカーボンニュートラルへと到達するという考え方だ。
しかも現在に至って、様相が少し変わろうとしている。
「EUは水素と二酸化炭素からつくられる合成燃料を使うエンジン車の販売は35年以降も認めると、政策方針を大きく転換しました。日本メーカーが現在のHVの技術をブラッシュアップすることで、世界市場の潮流がまた変わってくるかもしれません」というのが瀬在さんの見方だ。
進むCASE
HVの意味合いとは
マツダ3は、5ドア・スポーツハッチバックスタイルのモデル。日本国内では「アクセラ」の車名で長く親しまれていたが、グローバル市場で共通の現名に統一された。
マツダは2010年から「魂動」(こどう)という独自の哲学のもとでクルマをデザインしてきている。生命感あふれるダイナミックな〝美〟を表現し、「クルマに命を与える」ことをイメージする。この哲学はマツダ3にも受け継がれている。流線のボディに光と影のコントラストが際立つ。
今回試乗した20Sは、ガソリン2.0ℓDOHC16バルブエンジンにリチウムイオン電池を動力とするMJ型モーターをつなげた。このマイルドハブリッドシステム「eSKYACTIV G2.0」を搭載することで、エンジン走行を基本としながら発進時や加速時に電気モーターでアシストし燃料消費率の低減を図った。カタログによると、WLTCモードで16.4km/ℓだ。
瀬在さんは「モーターのアシストを受けたことで、走り出しがなめらかになりました。ハイブリッド化する前のエンジンモデルは発進時に〝もっさり〟とした感じがあったのですが、それが解消されています」と、インプレッションを述べる。
「ただ」と前置きすると、「このシリーズは運転をしていて〝かたさ〟をいつも感じるのです。ダンパーの特性がそう感じさせるのかもしれません。そういう観点からすると、装着されたタイヤがそれをよくリカバリーをしていると思いますよ」、このように続ける。
新車装着されたタイヤはTOYO TIREの「PROXES(プロクセス) R51 A」。サイズは215/45R18 89W。「偏平率45で18インチと、路面からの振動を拾いやすい低インチ・大口径サイズですが、ショックや微振動を吸収しているのでしょう。ゴーというロードノイズもよく抑えていると思います」。
高速道路を走行中、アクセルを踏み込みシフトアップ。加速しレーンチェンジを行う。タイムラグを感じさせず、クルマの動きはなめらか。反応もクイック。キビキビとした本来の走りがハイブリッド化によって一層洗練されたようだ。
装着タイヤへの要求
一層レベル高く
ホンダレジェンド・ハイブリッドEXはストロングハイブリッド。3.5ℓV6直噴i—VTECエンジンと7速A/T+パドルシフト、スポーツ・ハイブリッドSH—AWDを組み合わせた。最高出力314PS・6500/rpm、最大トルク371N・mというスポーツ性能を誇るホンダのフラッグシップモデルだ。燃費はWLTCモードで12・4km/ℓ。
このクルマにはホンダセンシングエリートという、自動運転レベル3(条件付き運転自動)を実現するシステムを搭載した。国交省が定義する自動運転のレベル区分によると、レベル3は「システムがすべての運転タスクを実施するが、システムの介入要求などに対してドライバーが適切に対応することが必要」というもの。
自動運転レベル2は実現されているが、3はホンダレジェンドが国内で初めて(この現行のレジェンドは22年1月で販売を終了した。なお自動運転レベル3の機能については次の機会で触れる)。
「コンフォート性能が優れていますよね。こうして話をしていてもお互い、大きな声を出す必要がありません。シートのホールド感、視界の広さとクリア感。フラッグシップらしい空間を実現しています」という瀬在さんの言葉の通り、上質な乗り心地だ。
高速道路で加速しながらレーンチェンジする。その挙動は穏やかだ。「ハイブリッドのフルタイム4WD車ですから、スポーツ性能のレベルが非常に高い。レスポンスとハンドリングに優れており、ドライバーは思いのままに操ることができます」、このように瀬在さんは高く評価する
その走りを支えるのは、「MICHELIN Pilot Sport(ミシュラン パイロット スポーツ)3」。245/40R19 94Vサイズが装着されている。サイド部に「トレッド・プライ:1ポリエステル+2スチール+1ポリアミド サイドウォール・プライ:1ポリエステル」と表示されているように、タイヤ内部のカーカス構造(骨格)を強化し、タイヤ剛性を全体的に高めている。
ガソリン車よりも重量のあるHV、しかもスポーツ性能の高い4WDの走りに対応しながら、高級サルーンにふさわしい上質なコンフォート性能が求められる。ホンダレジェンド・ハイブリッドEXの装着タイヤにとって極めて高い性能要求だ。それを満たすものが新車装着タイヤとして承認される。
マルチパスウェイ
複数経路で目的地へ
思うように走らない。何か気になるところがある――それが積み重なると、運転中のストレスへとつながる。発進・制動時や加減速時のクルマの反応。前方・後続車との車間(安全マージン)。コーナリングフィール。音。振動。ドライバーは常にさまざまな情報を検知し、一瞬で状況を理解し、ドライビングとして〝表現〟する。ストレス要因が少なければ少ないほど、ドライブする楽しさは増す。
「脱炭素社会の実現に向けて、クルマは絶対に進化しなければなりません。しかしEVだけが〝解〟なのかと言えば、そうではないと思います」と、瀬在さんはいう。
日本では給電施設が全国各地で完備された状況にあるとは言いがたい。SSの数は減少する一方に対し充電スポットは増加しているが、車種により充電方式に違いがあるなど、インフラとして解決しなければならない課題は山積する。ドライバーは『いつ充電すべきか』『どこで充電できるか』という不安な心理につきまとわれ解消されないままだ。
HVはそのような現在の状況にマッチする存在だ。ただし、もちろんそこが着地点ではない。あくまでも〝マルチパスウェイ〟の一つだ。
装着タイヤについても同様のことが言える。ガソリン車よりも車重が重く、トルクが高いHVに装着されるタイヤへの要求レベルはより高い。EV化が進めば、それがさらに高くなる。またEV用タイヤには航続距離を伸ばすため電費性能の一層の向上が求められる。
転がり抵抗の低減と相反するウェットグリップ性能、ハンドリング性能、コンフォート性能などをいかに高いレベルで両立するか。これまでの技術の蓄積がなければ高性能のEV用タイヤ開発は不可能だ。
この先で求められるカーボンニュートラルの実現に向け、タイヤ技術はどう進化すべきなのか。2種のHVに乗り、たどってきた確かなプロセスを垣間(かいま)見た。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=
モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。