住友ゴムが筑波サーキットでタイムアタックに挑戦
住友ゴム工業はニッサンGT−R NISMO(ニスモ)専用タイヤ、DUNLOP「SPORT MAXX(スポーツマックス) プロト」をメディア関係者に公開。同社と日産自動車は1月9日と10日の両日、茨城県の筑波サーキットで「SPORT MAXX プロト」装着のGT−R NISMOを使いタイムアタックを実施した。同車のステアリングを握った飯田章選手は9日のアタックで58秒820をマーク。市販車最速タイムレコードを更新した。
――2019年。筑波サーキットのタイムアタックで、それまでの市販車最速記録を破り世界最速タイムを叩き出したのがGT−R NISMO(2020MY)だった。1分を切る59秒361。しかもチューニングカーではなく市販車で。それもスポーツ走行用タイヤやレース用タイヤではなく新車装着タイヤで。
最速記録の更新に大きく貢献したDUNLOP「SP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」はニッサンGT−Rの新車装着用タイヤだったのだ。
商品名に記された「DSST」はDunlop Self Supporting Technologyに由来。空気圧ゼロの状態でも時速80km/hで距離80kmを走行できるランフラットタイヤを意味。
「CTT」はCombined Technology Tireの頭文字から。インボリュート曲線という概念を採用した、プロファイルに丸みのあるタイヤ形状を意味する。
――2024年。自らが樹立した筑波での市販車最速記録に両社は挑んだのだ。
GT−R用タイヤ開発の歴史
DUNLOPにはスカイラインGT−Rの初期型から同車用タイヤの開発に参加していたという歴史的背景がある。2007年のR35型GT−R初代モデルに、DUNLOPが新車装着タイヤとして採用された。
日産は07年以降、R35GT−Rを11・14・17・18・20・22年モデルとして改良を重ねてきた。それに合わせてDUNLOPも新車装着用タイヤの進化に取り組む。ワークスチューナーのNISMOがR35GT−Rのチューニングカー開発を始めたのを機に、14年からGT−R NISMO(2014MY)専用タイヤ開発にも参加し、現在に至る。GT−R NISMO24年モデルが先に発表されたが、その新車装着タイヤも進化した「SP SPORT MAXX GT 600 DSST」だ。
「コーナリング性能が鍵」と瀬在さん
本紙では新車装着用タイヤにフォーカスする企画記事をシリーズ化しているが、そのドライビングインプレッションを担当するのが、モータージャーナリストの瀬在仁志(せざい ひとし)さん。瀬在さんはサーキットでR35GT−Rを強力なライバルとして闘ってきたひとりだ。
今回のタイムアタックチャレンジについて、「新車装着用タイヤで記録の更新を狙うことは非常に意義が深い」と瀬在さんは話す。「新車装着タイヤは〝究極〟の専用タイヤ。クルマの持つ性能をフルに発揮させるために開発されたのだから。今回チャレンジングなのは、単にラップタイムを更新するだけではないこと。新車装着用タイヤなので、ドライグリップや直進安定性だけでなく耐摩耗性など、ほかの性能とのバランスが重視される。しかも一般的に堅いと言われるサイド補強型ランフラットタイヤを、いかに乗り心地を確保しつつ、コーナリング時のグリップやコントロール性をどのように向上させるのか。そこが鍵」と、指摘する。
長距離を快適に走れるタイヤに
ニッサンGT−R NISMO(24年モデル)専用タイヤとして開発中の「SP SPORT MAXX GT600 DSST プロト」。スポーツタイヤの新フラッグシップタイヤ「SPORT MAXX」シリーズの一つで、今後販売を計画する商品のプロト版だ。
グリップの向上を図りつつ、GT−R用タイヤとして300km/hの耐久性とロードノイズの低減を目指し開発が進められている。前後異径のタイヤ装着で、フロントサイズが255/40ZRF20、リアサイズが285/35ZRF20。
プロトタイプには「高剛性パターン」と「ニューハイグリップトレッドゴム」を採用。「路面追従ブロック形状」により接地面の圧力を均一化したことでグリップを向上。「スポーツ走行専用の最適ショルダー形状」を施すことで、スポーツ走行時でも摩耗の均一化を図った。「ショルダー部のバンドのハイテンション化」により300km/hまで耐える高速耐久性を備える。
安全技術として、パンクしても一定の速度で一定の距離を走行可能なランフラット構造を採用。スポーツ走行だけでなく乗り心地が問われるグランドツーリングカー、つまり長距離を快適に走れるクルマであるGT−Rに対応。ランフラットタイヤでありながら、すぐれた走りと上質な居住性の実現を図っている。
考えうる技術すべてを盛り込む
10日のタイムアタックでは前日にマークした記録のさらなる塗り替えが期待されたが、残念ながらわずかに及ばなかった。
その会場で、同社タイヤ事業本部企画本部グローバルマーケティング部課長代理の宇野弘基氏は「目標としていた58秒台に入ることを達成できたのはうれしい。59秒を切ったあとの修正がうまく進んだので、10日は57秒台でイケると思ったのだが…」と、満足気な笑顔のなかにも少しくやしそうな口調をにじませた。
プロトタイプタイヤについて聞くと、宇野氏は「このタイヤはタイムを出すため〝だけ〟を目指し開発したものではない。いま考えうる最新の技術を盛り込んだらどんなすごいタイヤができるのだろうか。すごい性能を示すことができるのではないか。フラッグシップタイヤという名にふさわしい性能を発揮することができた」とし、「パターンやグリップももちろんだが、サーキット走行後の摩耗状態が違う。コーナリングフォースで、アンダーステアが出るギリギリのところで滑らない接地面圧となるタイヤの形にした」、そう語る。
発売時期はまだ先になりそうだが、チューンを施し上市される予定。