地元とともに歩む地域密着店
作業品質にこだわり信頼関係を構築
千葉県茂原市六ツ野1850—1の「タイヤパラダイス」。金丸タイヤ株式会社が運営するタイヤ専門店だ。代表取締役社長を務めるのは金丸勝さん。タイヤ販売会社の営業所での勤務時代からの付き合いだ。タイヤパラダイスは2012年4月1日にオープンしたので、十二支でいえばちょうどひと回り。前回の訪問から数えてみると十年経っていた。積もる話も多い。さっそく金丸社長のもとへと向かった。
茂原地区は千葉市や東京都心への通勤圏。日本でもっとも歴史のある天然ガス会社が本社を構えており、周辺には天然ガス田が広がっている。千葉県の中央部に位置し、古くからの〝街道〟の面影を今に残す。市でも「〝まち〟と〝いなか〟のいいとこどり」をアイキャッチに、深く刻まれた歴史と豊かに育まれた地域の文化を観光資源として訴求する。
ただ、近年は違う側面でクローズアップされることとなる。23年9月、台風13号の接近にともない記録的な大雨が降ったことで河川が氾濫し、市役所周辺をはじめ広い範囲で浸水被害を受けた。茂原地区はこれ以外でも、平成以後で4回も大規模な浸水被害を経験している。その結果「水害の街」という、ありがたくないニックネームまで冠せられてしまった。
市の商工会議所のメンバーとして地元の社会活動に取り組む金丸さんは、繰り返される浸水被害に眉根を寄せた。タイヤパラダイスは直接的な浸水被害は免れたものの、顧客企業や関係先に被災者は多いという。水害に懲りて転出することを決断する市民が増えることになれば、労働人口の不足に拍車がかかる。地域経済にも大きな打撃を与えることになりかねない。
地域密着店として、茂原市とともに歩みを進めてきたからこそ、治水対策の推進は決して他人事ではないということが、金丸さんの話からうかがい知ることができる。
県道138号線と県道293号線で市を結ぶ位置にタイヤパラダイスは所在する。この地に同店を開業後、金丸さんは茂原商工会議所青年部に入会。前記のとおり現在は商工会議所の議員に選ばれ、地域経済の発展と振興に向けて力を尽くす。活動を通じ多くの知己を得ることで、連帯は広がり続ける。
その一環として、金丸タイヤでは毎年、売上に応じてその一部を市の学校教育プログラムに寄付する活動を行っている。現在事業があるのはこの地に根を生やすことができたから。その地元の、次世代に少しでも何かの形で役に立つことができたらと始めた社会貢献活動だ。「無理せず、できる範囲で」(金丸さん)というのが、長く続けられるコツのようだ。
タイヤパラダイスが取り扱うタイヤは軽自動車からミニバン、SUVに至るオーナードライブユースのクルマ。第一次産業などの現場で使われる軽トラ、キャブバン。運送事業の大型トラックと、実に多種多様だ。380坪という敷地面積に、乗用車なら20台程度は駐車することが可能な広い駐車スペースを確保。天井を高くとったピット作業場を2フロア、備えているのは開店当時から。
建屋面積は約230坪。店内スペースも広く、来店客はゆったりとくつろぐことができる。薄暗く、雑然とし、どこかマニアックな雰囲気が醸しだされる場を「昭和レトロの純喫茶」と見立てるとしたら、タイヤパラダイスは「平成・令和のカフェダイニング」と表現していい。前者とは正反対に明るく、清潔で、整然としている。これも店のオープン当初からずっと守っている。
なによりも続けてきているのが「信頼関係」の構築だ。タイヤのみではなく、ビジネスで基本の最たるところ。根幹となる。タイヤの整備に関わる作業品質について、金丸さんが強くこだわるのもそこにある。
金丸タイヤでは「規定トルク締付証明書」の発行機能を有する機器・サービスの開発に積極的に加わってきた。大型車の車輪脱落事故が減るどころか増える傾向にあるなか、タイヤ専門店としてこの問題にいかに取り組むべきか。タイヤの脱着や増し締め作業の際、規定のトルク値で正確に締付を行うことがユーザーの安全ドライブを実現する。「タイヤパラダイスなら任せて安心だ」、そう言われる店であり続けるために、金丸さんはこれからも挑戦する。