Talk About Driving  モータージャーナリスト瀬在さんと、BEVに乗りながら  BMW i5 M60 xDrive

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カテゴリー: レポート, 試乗
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BMW i5 M60 xDrive車両
BMW i5 M60 xDrive車両

 CASEとは、Connected(通信ネットワークとつながる)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(ライドシェアと周辺サービス)、Electric(電動化)の頭文字に由来する。このシリーズで内燃機関(ガソリン・エンジン)車、ハイブリッド車、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=燃料電池車)に試乗し、それらにまつわることを考察してきた。今回はBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー式電気自動車)。BMW i5 M60 xDriveに乗った。

 

 強烈な加速と静かな走行。EVの特性を支える

 

 ランプウェイから高速道路本線へと入る。瀬在さんが「さっそくEVらしさを感じてみましょう」と、謎めいた言葉を発する。

 頃合いを見計らって、走行車線から追い越し車線へ。ポンとアクセルを踏み込むとクルマの速度が一気にあがった。身体にGがかかるのを感じる。サーキットやテストコースの走行で経験をしたことがある加速。頭がヘッドレストにグーッと押さえつけられるようだ。

 ほんの一瞬のアクセルワーク。すぐに速度が緩められた。「この強烈な加速。これがEVの大きな特徴ですね」と、瀬在さんは解説する。

 EVの電気モーターは、ガソリン車のエンジンよりもトルクが大きい。この場合のトルクとはタイヤを回す力。それが大きいということは、路面への伝達力が強い。しかも電気モーターの場合、トルクのパワーは発進後、一気にピークへと達する。ガソリン車のエンジンは回転数があがってからピークに到達するまでに時間差があるため、発進したときのトラクションのかかりかたや、低速域から高速域へと加速したときのスムーズさが明らかに違う。

 

 このシリーズでレポートした高性能スポーツカーのBMW M850i xDrive クーペは、排気量4.4リットルのV型8気筒DOHCエンジンを積む。最高出力530PS、最大トルク750Nm。0−100km/hの加速性能は3.9秒。

 対して、BMW i5 M60 xDriveは、システム・トータルの最高出力601PS、システム・トータル最大トルク795Nm。0−100km/hの加速性能は3.8秒。(データはいずれもヨーロッパ仕様車値。BMWの資料による)

 併記しておくと、前者の燃料消費率WLTCモード8.1km/ℓ(タンク容量68ℓ。単純計算で満タン給油550km程度)、後者の1充電走行距離WLTCモード455km。車両重量は前者が1990kg、後者が2360kg。

 

 EV化の進展でタイヤに求められる性能

 

BMW i5 M60 xDriveリア真横
BMW i5 M60 xDriveリア真横

 伝統のMシリーズらしいセダンのフォルムを受け継ぎ、電動化により一層トルクフルな走りを実現したBMW i5 M60 xDrive。それを支えるのがBMWから承認された「★」(スター)マークの刻印が入った新車装着タイヤだ。今回の車両にはピレリ「P ZERO」が装着。タイヤサイズはフロント245/40R20 99Y XL、リア275/35R20 102Y XLの前後異サイズ。

 「電動化によってクルマの性能はハイパワー化・高トルク化しています。発進時のトラクション性能、駆動力、コーナリング時の踏ん張りと旋回性能、またブレーキワークによる制動性能。装着されるタイヤにはこれらに対する要求がより高いものになってきています」と、瀬在さんは指摘する。

 EVが今後普及していくうえで求められるのが電費。内燃機関車で燃費にあたる性能の向上だ。自工会が先に行った市場動向調査結果でもあげられたが、EVの導入で懸念されているのが「1回の充電での航続距離が短い」「充電に時間がかかる」「充電施設が少ない」こと。これらを解決するために、装着されるタイヤには省電費性能が重視される。

 タイヤの転がり抵抗性能をあげながら、トレードオフの関係にあるウェット性能をいかに両立させるか。サステナブルなモビリティ社会実現をめざし、メーカー各社は高性能の低燃費タイヤの開発に取り組んできている。そこで培ってきた技術を活用し、省資源化のレベルをさらに高めるタイヤ開発を進めているさなか。EV向けのタイヤはその里程標となる。

 

BMW i5 M60 xDrive
BMW i5 M60 xDrive

 EVのもうひとつの特性として走行音が静かなことがあげられる。従って装着タイヤには静粛性が求められる。今回装着の「P ZERO」はピレリ独自の「ノイズキャンセリングシステム」(=PNCS)を搭載した。路面から生じる振動がタイヤ内の空気に共鳴しキャビティノイズを発生させるが、PNCSはタイヤ内部に貼ったポリウレタン製の騒音吸収スポンジがその振動を大幅に低減。タイヤのノイズ性能を向上した。

 

 欧州メーカー系のEVは車両重量が重くなる傾向を示す。車重が増えればその装着タイヤの摩耗に与える影響がより大きくなるのは間違いない。

 高い負荷能力を備えたうえで、タイヤの耐摩耗性を向上させるか。また新品時のタイヤ性能を摩耗末期までしっかりと持続させることができるか。EV化で浮き彫りにされたタイヤ開発のテーマはきわめてむずかしい。その具現化には、蓄積された知見に基づく技術力とタイヤづくりのノウハウが不可欠だ。

 

 =瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

瀬在さん
瀬在さん

 モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。


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