クラウンセダンFCEV
クルマがCASEへと大きく舵を切るなか、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=燃料電池車)の車両が市場に出まわる数はまだ少ない。車両に搭載した燃料電池で水素と酸素を化学反応さ
せて発電し、その電気でモーターを動かして走るFCEV。走行時に二酸化炭素を排出せず、化学結合した水のみが排出されることから、究極のエコカーとも呼ばれる。そのFCEVがクラウンシリーズにラインアップされた。
後輪駆動セダンの本流に最先端の水素技術を融合
「MIRAIはチャレンジングなところが多くみられました。それに対して、クラウンはフラッグシップカーとしての伝統を持っています。この違いはとても大きいと思います」、それが瀬在さんのファーストインプレッションだ。
クラウンセダンのグレードは「Z」のみ。パワーユニットの違いで、ハイブリッド(HV)とFCEVが設定された。クラウンセダンはMIRAIとプラットフォームを共有する。ただ車両のサイズはクラウンセダンのほうが5メートルオーバーで大きい。クラウンセダン全長5030ミリ×全幅1890ミリ×全高1475ミリ。車両重量2000キロ。MIRAI全長4975ミリ×全幅1885ミリ×全高1470ミリ。車両重量1970キロ。
クルマの長さ自体は55ミリの差だが、ホイールベースで比較すると、その差は歴然となる。クラウンセダンは3000ミリで、MIRAIの2920ミリよりも80ミリも延長された。これは「後部の居住空間を拡大し、〈くつろぎの空間〉を実現する」ためだ。
クラウンセダン、MIRAIともに標準装着タイヤは235/55R19 101V(クラウンセダンは245/45ZR20 103Yサイズの設定あり)。今回試乗したクラウンセダンにはブリヂストンの「TURANZA(トランザ) T005A」が装着された。「TURANZA」シリーズは高速運動性能と居住性を高次元でバランスさせた高性能タイヤブランド。「TURANZA T005A」は新車装着用タイヤである。
瀬在さんは今回のクラウンセダンFCEVの前に、クラウンセダンHVにも試乗していたという。そのHVには20インチタイヤが新車装着されていたそうだ。「20インチのほうはこの19インチよりももっと堅く感じましたね。クラウンがスポーティへと性能を振っており、それと相まって20インチは運動性能への指向が強い。それに対しこの19インチはクッション性にすぐれており、高いレベルの乗り心地を実現しコンフォート性能を向上しています」と、その違いを分析する。
ところで、22年7月に発表された16代目となる新生クラウン、その第1弾がSUVのクラウンクロスオーバー(以下、CO)だ。この試乗シリーズでもレポートしたが、クラウンCO G Advancedには、225/45R21 95Wサイズが新車装着された。「おそらく過去にはあり得なかった」(瀬在さん)、21インチサイズのタイヤを乗用車クラスに履かせるという発想だ。ではそのCOと、新生クラウン第3弾となるクラウンセダンとでは、どう異なるのだろうか。
クラウンCOは全長4930ミリ×全幅1840ミリ×全高1540ミリ。ホイールベースは2850ミリ。長さと幅、ホイールベース長はクラウンセダンどころかMIRAIよりもコンパクトだ。一方で車両の高さは3車種のなかで最も背が高い。
そのクラウンCOにはE−Fourが搭載された。E−Fourとはトヨタ独自の電気式4WDシステムのこと。通常は燃費に優れる前輪駆動(FWD)で走行し、加速時や路面状況に応じて4WD走行に切り替わる。雪道など滑りやすい路面やコーナリング時で前後のトルク配分が最適化されるため、燃費性を高めながら優れた走行安定性、コーナリング性を実現する。
スポーツ性能とコンフォート性能、環境性能と、あらゆる性能を高い次元で両立するために、タイヤはこれまでになかったアスペクトレイシオ45の21インチが装着されたとみられる。
一方、クラウンセダンは後輪駆動(RWD)。セダンの本流、クラウンの伝統を貫く。ドライブフィールは後輪駆動ならではの、正統派のハンドリング感を出した。サスペンションはフロント・リアともにマルチリンク式を採用。また、ドライブモードには標準の「ノーマル」、穏やかな加速の「エコ」、鋭い加速の「スポーツ」、自分の好みの組み合わせが可能な「カスタム」。それらに加え「リア・コンフォート」というAVS制御による乗り心地重視のモードを新たに搭載した。その走りの特徴を「路面の細やかな凹凸をより一層伝えにくい上質な乗り味で、くつろぎの後席空間を実現した」としている。
クラウンセダンは〈新時代のニューフォーマルセダン〉〈大切なゲストのおもてなし空間〉とうたわれる。個人のオーナードライバーだけではなく、法人ユースをターゲットに定め開発されたことは、このようなところからもみてとれる。
「足元は広いのですが、座るとリアシートが少し高い。ホイールベースを延長してセダンらしいパッケージングを実現していますが、車体下部に燃料電池を配置する関係でそれが影響しているのでしょう」と瀬在さんは述べ、次のように続ける。
「ボディの剛性がしっかりとしていて、遮音性や振動の抑制が効いています。よく鍛えられ、クラウンらしい上質な空間と走りを実現しています。静粛性もMIRAIよりさらに静かになっています。そのMIRAIはFCEV専用の設計。水素を使って走るという、カーボンニュートラルへの挑戦をカタチとして表したクルマと言えます。
一方、クラウンセダンには2.5リットルのガソリンと電気モーターを備えたHVと、このFCEVという二つのパワーユニットを用意しました。市場でのメインはHVとなるのでしょうが、クラウンにはFCEVもあるのだということを示すことで、FCEVをもっと身近な存在にしたい、そんなねらいがあると思われます」。
クラウンという伝統、後輪駆動でセダンという、まさしくその本流のなかで、FCEVという最も革新的なことを具現化した。「現在トヨタが持つパッケージング、パワーユニット、駆動方式、ボディフォルムをすべてクラウンシリーズで表現しきってしまおうということ」がドライブフィールによく表れている。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=
モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。