毎年のように深刻な事故が発生する空気充てん時の作業。日本自動車タイヤ協会のまとめによると、昨年は31件の事故があり1名が死亡した。タイヤが破裂した時の危険性は多くの人が知識として理解しているが、それを実際に体感した人はどれほどいるだろうか――。滋賀県タイヤ商工協同組合は昨年から「タイヤバースト体感研修」を行い、安全意識を高めるための取り組みを強化している。10月29日、滋賀県自動車整備振興会で開催した研修会には組合員をはじめ多くの関係者が参加した。
滋賀県では一昨年、空気充てん中の死亡事故が発生した。これを受けて滋賀県タイヤ商工協同組合では、「タイヤバーストがいかに危険で、どれだけの威力があるか」を実際に体感し、日常の安全意識向上へ繋げることを目的に研修会を行っている。2回目となった今年は組合員のほか、滋賀県整備振興会、滋賀県トラック協会などから30人以上が参加した。
同組合の山北定之理事長は、「充てんを行う時に注意して欲しいこと、バーストする前に起きることを体感して帰っていただきたい」と述べ、“自分は大丈夫”と思う気持ちから安全が疎かになってしまうことについて警鐘を鳴らした。
また芝山真一専務理事は、「知識として知っていても、実際に経験していないとどこに注意すれば良いのかわからない。そういった意味でも、体感研修は安全意識を持つために必要」と話し、「充てん中にぶつんぶつんとカーカスがちぎれる音が聞こえたら、すみやかに退避してエアーを抜くなどの対処が必要となる」と、予兆があった段階で気付く重要性を語った。
参加者は座学でタイヤバーストのメカニズムや空気充てん機器の安全装置などを学んだ後、屋外で3種類のタイヤのバースト実験を行った。
実験では、最初にPC用タイヤのバーストを行った。660キロパスカル付近でバーストした瞬間、作業台から勢い良く吹き飛んだダミー人形に見学者からはどよめきがあがった。
続いて中型タイヤでは、しゃがみこんで作業を行うシーンを想定。680キロパスカル前後でタイヤが破裂し、爆風を頭部に受けた人形が宙に舞い上がる。高圧になった空気の威力をまざまざと見せつけた。最後に行った大型のTBタイヤでも540キロパスカル前後でダミー人形は大きく後方へ吹き飛ばされた。
参加者は破裂したタイヤや各企業が提供した破壊されたタイヤのサンプルを目の当たりにして、その威力と危険性を改めて実感していたようだ。ある参加者は「聞くと見るとは大違いで、すごい威力だった。予兆の音もわかったので、今後に活かしたい」と話していた。
山北理事長は、「研修では意図的に傷を入れているので、どの方向にバーストするか分かっているが、実際の事故はタイヤ内部のどこに傷が入っているのか分からない。爆発の予兆をしっかりと学び、この音がしたら無条件に逃げると覚えておいて欲しい」と指摘する。
その上で「命はお金で買えない。人命と比べたら設備の投資や被害など安いもの」と安全作業の大切さを繰り返した。