伝統の力強い走破性を継承。操縦性さらに向上
このシリーズの前々回、ホンダ・WR−Vの流れを受け、多目的車のジャンルから今回選んだのがスズキ・ジムニーだ。昭和世代のクルマ好きにとって、登場というフレーズの前に〈ついに〉や、〈いよいよ〉という副詞を使いたくなる車名に違いない。本紙がこれまで乗ってきたスカイラインGT NISMOやBMW M850i xDrive クーペなどは速さを追い求めるGTカー。それに対し、ジムニーは力強い走破性を実現する四輪駆動車の代名詞のひとつだ。
スズキはことし2月、軽四輪駆動車ジムニーと小型四輪駆動車ジムニー・シエラについて、一部の仕様を変更し発売した。2018年にフルモデルチェンジ。現在はシリーズ4代目となる。
初代ジムニーの誕生は1970年。当時、軽自動車で唯一の本格4WDとして発売された。モータリゼーションが進展し、クルマに多様化が求められようという時代。4WDはそれまで産業用や山林、荒れ地、豪雪地といった厳しいロケーションでの用途に限られていた。
それをジムニーはあらゆる走行シーンに対応するクルマとして市場を開拓。またたく間に多くのファンを獲得した。その人気は国内にとどまらず、現在では世界約200カ国・地域で販売され、スズキの世界戦略を担うブランドへと成長し続けている。
今回乗ったのはジムニーXC・5MT。駆動は全車パートタイム4WD方式。排気量0.66リットル、ジムニー専用にチューニングしたR06A型DOHC吸気VVTターボエンジンを搭載した。
前回のフルモデルチェンジは1998年。軽自動車の規格が拡大されたことにともない、3代目モデルが発売された。4代目はそれから20年ぶりのフルモデルチェンジとなるので、その〈息の長さ〉を比較できる相手はそうそう見つからない。
「ここまでロングセラーを続けられるのは、軽四輪駆動車市場を開拓したパイオニアだからであり、ユーザーの心をキャッチして離さない走破性を実現しているからでしょう」と、瀬在さんは話す。
軽自動車ならではのコンパクトサイズ。小回りが利き、車両の感覚がつかみやすい独自のスクエアなボディ。それに低燃費性能。
スズキによると、4代目にもジムニーシリーズのはしご型ラダーフレーム構造を継承。さらにそのラダーフレームに新開発の「X(エックス)メンバー」と「クロスメンバー」を追加することでねじり剛性を先代よりも1.5倍高めたという。新ボディマウントゴムも搭載し、上下方向を柔らかくし乗り心地を向上するとともに、水平方向を硬くし優れた操縦安定性を実現した。
瀬在さんはさらに「リジッドアクスル式サスペンションとトランスファーレバー、二つのメカニズムもしっかりと受け継がれています」、このように付け加える。
リジッドアクスル式は左右の車輪をダイレクトにつなぐサスペンション。一般的な乗用車に多く採用されている独立懸架式のそれに比べて、凹凸路で優れた接地性を確保する。過酷な使用環境に強い走破性を発揮するサスペンション方式だ。
トランスファーレバーは機械式の副変速機。パートタイム4WDでは、ドライバーが路面状況に応じて任意に2WDと4WDを切り替えることができる。そのときに2H(2H)、4H(4WD高速)、4L(4WD低速)と、さらに細かく走行モードの切り替えを行うことができるものだ。
2Hは市街地や高速道路で、4Hは雪道や荒地など2WDでの走行がむずかしいシーンで使う。4Lは通常の約2倍の駆動力を発揮することができ、ぬかるみや急勾配など悪路で使用する。
高速道路をつないで、郊外へと向かう。ドライブする瀬在さんは「運転席回りが軽自動車の割に広い。ハンドルやシフト操作がしやすいですね」と、感想を述べる。エンジンを縦置きとしフロントタイヤ前端より後方に配置するFRレイアウトを採用しているので、凹凸を超えるドライビングのときに重要なアプローチアングルが確保されたそうだ。
また、新型ジムニーにはブレーキLSDトラクションコントロールという電子制御を標準採用。これは4L走行時に作動するもので、左右のタイヤのどちらかが空転した場合に、エンジントルクを落とすことなく空転したタイヤにだけブレーキをかけ、もう一方のタイヤの駆動力を確保するもの。
瀬在さんは「ロングセラーのクルマらしいメカニカルなところがたくさん残っており、手足にそのダイレクト感がしっかりと伝わってきます。まさに操縦するという感覚。とても楽しいクルマです。ハンドルを握ったらこのままずっとどこまでも走って行きたい、どこへでも走って行ける。そのように思わせてくれます」と、その表情も楽しそう。
新車装着されていたタイヤは、ブリヂストン「DUELER(デューラー) H/L」シリーズ。サイズはフロント・リアともに175/80R16 91S。市街地の舗装路や高速道路での走行をメインに、居住性を高めたSUV用タイヤだ。
ジムニー・ドライバーにはオフロードへの指向を強め、足元のカスタマイズに力を入れるコア層が多い。たとえば、岩場やガレ場で競技するロッククローリングはその一つ。このオフロードスポーツに参加する車両にジムニーを多く見かける。それもひとえに、その走破性の高さに由来する。
=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=
モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。