住友ゴム・名寄TTC  冷却装置導入で冬タイヤ開発期間を「GW前」まで  開発の〈ハードル〉乗り越える

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カテゴリー: レポート, 現地
「NICE」内での試走シーン
「NICE」内での試走シーン

 12月25日号で既報したように、住友ゴム工業は名寄タイヤテストコース内の屋内氷上試験施設「NICE」に冷却装置を導入した。その背景には、オールシーズンタイヤやスタッドレスタイヤの開発に際し温暖化をはじめとする環境の変化や国際基準への対応があげられる。冷却装置を導入することで、タイヤの開発効率化への布石を打った格好だ。竣工式典終了後には「シンクロウェザー」と「ウィンターマックス03」を履いての試走会も行われた。

 

 国際規格背景に導入決断

 厳しい気温条件にも対応

 

名寄TTC
名寄TTC

 名寄タイヤテストコースは総面積87万平方メートルと広大な敷地を有する。同社のPC用タイヤやSUV用タイヤのテストを実施する。これまで旭川タイヤテストコースで試験をしてきたTB用タイヤも、今冬から名寄に移管する予定。

 名寄TTCに「NICE」を開設したのは2021年のこと。この「NICE」開設と、今回の冷却装置導入はICEグリップ規定に端を発している。

 ICEグリップ規定はUNECE R117-2で追加され、21年には試験方法がISO19447として国際標準化。22年10月にこの試験方法に基づいた規定がR117-2に追加された。この規格試験を通過するとサイドウォールにアイスグリップシンボルを刻印することができる。

 運用カテゴリーはPCのみで、ブレーキ試験を実施する。ハードルとなるのが、温度条件だ。ICEグリップ規格試験は気温がマイナス15度からプラス4度、路面温度をマイナス15度からマイナス5度の範囲で実施する必要がある。住友ゴムの第三実験部岡山TTCの吉岡武部長によると「通常のスタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤは路面温度がマイナス3度から0度でテストを行っている」とし、例年暖冬になるなかで、「マイナス15度からマイナス5度の氷の路面をつくるのは、高いハードルになっていた」と指摘する。

 「2014年から規定について議論が始まり、それを踏まえて当社でも17年からNICEの構想を進めて、まずは屋内での安定した試験環境の実現を目指した」

 今回の冷却装置導入でより安定したテスト環境が実現する。名寄でも外気温がマイナス10度ほどにならないと「NICEの氷上路面温度のマイナス5度を維持するのはむずかしい」というが、こうした外気温頼りからの脱却をめざす。

 さらに今後、建屋の断熱工事や冷房の導入も行っていく予定だ。これにより開発期間は「4月、あるいはGW前まで伸ばすことが可能」という。

 

 ウェットグリップや

 車外騒音試験も名寄で

 

屋内氷上試験施設NICE
屋内氷上試験施設NICE

 気候変動の影響は夏場の試験にも影響が出ている。

 名寄TTCでは冬場のタイヤテストに使用してきたが、一昨年から夏場の運用もスタートした。それまで岡山TTCで行ってきたウェットグリップ試験や車外騒音試験を名寄TTCに移管した。

 移管の背景には、やはり気温・路面温度の条件がある。ウェットグリップ試験では気温・路面温度の上限は35度、車外騒音試験では路面温度上限が50度だ。吉岡氏によると「夏場の岡山では朝10時頃までにはこの上限を超えることがしばしばある」という。気象庁の統計によると、岡山市と名寄市の夏場の平均気温の差は10度近くとなり、名寄TTCのほうがテスト環境に適していると判断した。

 このようなタイヤ開発のハードルは国際基準や気候変動だけではない。〈セミの鳴き声〉にも悩まされる。

 「車外騒音のテストではタイヤの音に対して環境音は10dB以上、下回らないといけない。しかし、夏の岡山ではセミの鳴き声でこの規定のクリアできなくなっている」

 こういった問題にはタイヤメーカー各社だけでなく、自動車メーカーの担当者も頭を悩ませているという。気温とは異なり抜本的な対策がないのが現状で、「セミが鳴き止む日の入り後にテストを実施する」などの対処をするしかないようだ。

 

 2つのタイヤを試走

 オールシーズン遜色なく

 

 竣工式典終了後にはスタッドレスタイヤの「WM03」と、オールシーズンタイヤの「シンクロウェザー」の2種のタイヤで試走が行われた。それぞれ制動と、3周の旋回を行う。時速は制動時が時速20キロから30キロ、旋回時は20キロ弱だ。

 旋回時は、低速だったためスタッドレスもオールシーズンも違いを感じさせることはなく、ハンドルの動きに素直に応答した。

 制動距離については、僅差だが、WM03に軍配があがった。試走時は速度など条件が異なるが、感覚的には停止まで2~3秒開いた。同乗した住友ゴム関係者によると「条件にもよるが、だいたい1メートルくらい差がでる」とのことだった。

 シンクロウェザーは北海道では積極的な販売戦略はとられていない。しかし、このスタッドレスとオールシーズンの差は近い将来埋まるかもしれない。

 村岡清繁取締役常務執行役員は「(シンクロウェザーの基幹技術である)アクティブトレッドを必ず進化させる」と強調。「進化したシンクロウェザーを開発した際には、名寄の皆さまに北海道で初めてご装着いただきたい」と呼びかけた。

 名寄TTCや「NICE」は、次世代「シンクロウェザー」開発時にテストコースとして活用されることが予想される。今回の冷却装置導入は国際基準に合った安全・安心という社会的責任を果たすとともに、未来に向けた投資となりそうだ。

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