Talk About Driving  モータージャーナリスト瀬在さんと、ジャパニーズBEVに乗りながら(1)  ホンダe

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カテゴリー: レポート, 試乗

 イメージを覆す走りの良さは前後異サイズにあり

 

ホンダe
ホンダe

 CASEが進む現在、コネクテッドカーと電気自動車が注目を集める。本紙のこのシリーズではこれまで、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=燃料電池車)のMIRAI(ミライ)やクラウンセダン、BEV(バッテリー式電気自動車)のBMW i5 M60 xDriveを試乗してきている。その流れを受け、国産BEVを選んでみた。

 

 「24年販売終了、しかし即、名車の呼び声が高くなる、そんな予感がするクルマです」——瀬在さんがこのように表現するのが、今回試乗に選んだ本田技研工業のホンダe(イー)。2019年の東京モーターショー(現名はJapan Mobility Show=ジャパンモビリティショー)で公開されたホンダ初の量産BEV(バッテリー式電気自動車)だ。

 20年10月から発売開始。24年1月まで生産し7月で販売を終えた。販売期間が3年強。自工会による調査では近年、クルマの保有期間は長期化する傾向が強い。23年実施の市場動向調査によると、乗用車で平均7.2年、10年超は2割強を占める。それを照らし合わせ考えると、この販売期間3年はあまりにも短い。

 日本メーカーの量産BEVは日産自動車LEAF(リーフ)が草分け。初代モデルが10年から販売開始。現在は17年にフルモデルチェンジした2代目に受け継がれている(この2代目モデルのインプレッションについては次回の本欄で予定)。

 ホンダeはそれを追って開発されたホンダ初の量産BEV。全長3895ミリ×全幅1750ミリ×全高1510ミリ、ホイールベース2530ミリというコンパクトサイズのボディ。4人乗りの5ドアハッチバック車だ。

 「モーターをリアに置き、リアドライブで走るRR車、つまり後輪駆動車なのですよ。このクルマの特長の一つですね」と、ステアリングを握る瀬在さんは解説する。スポーツ性能に寄せた走りを実現している。操縦性や車両の取り回しにも優れるという。

装着タイヤのミシュラン「PILOT SPORT4」_1
装着タイヤのミシュラン「PILOT SPORT4」

 装着された純正タイヤはミシュランの「PILOT SPORT4(パイロット スポーツフォー)」。フロントが205/45ZR17、リアが225/45ZR17という前後異サイズの設定だった。

 瀬在さんは「基本性能を備えつつ、スポーツドライビング性能を引き立たせてくれるというところからのブランドチョイス、前後異サイズタイヤの採用だと思われます。そのねらい通り、高速走行時のホールド感や操舵性はとても良いフィーリングです」と、高速ドライブでの印象を語る。

 

 外観は「丸目」が際立つ、愛らしいフロントデザイン。むかし人気を集めた初代シティをふと思い出した。まことにホンダらしいと言えるのではないか。そんなクラシカル(あるいはノスタルジック)な外観に対し、内部はサイバー調のインパネがフロントシートに座るふたりを迎えてくれた。2枚のワイドビュー液晶モニター画面にデジタルサイドミラーという先進的なインターフェース機能がそこにいくつも組み込まれている。

 自動車はCASEの時代が到来したと指摘される。CASEのCはConnected(=コネクテッド、接続された)の頭文字。クルマとインターネットが常につながり、車両に搭載された各種のセンサーで収集されたさまざまな情報が外部システムと連携し、リアルタイムで共有される。

 このようなコネクテッド技術とEVは親和性が非常に高い。米国テスラは最新のコネクテッド技術をいち早く採用したことでクルマを〈走るスマホ〉化させて、その先駆者となった。ホンダeも時代を見据え、そのようなコンセプトで開発されたに違いない。

 

 時代に先駆けていながら、ではなぜホンダeは3年ほどの期間で販売終了という短命の道をたどったのだろうか。

装着タイヤのミシュラン「PILOT SPORT4」_2
装着タイヤのミシュラン「PILOT SPORT4」

 搭載バッテリーの容量が35.5kWh(ちなみに、初代リーフ24kWh→最新リーフ60kWh)、航続距離300km弱程度。日本市場でBEVが普及しない理由に「航続距離が短い」「充電に時間を要する」「充電インフラが不十分」が挙げられる。航続距離300km程度だと、クルマを使う頻度が増えれば増えるほど、これらのネガ要素を日常的に味わうはめになるのは想像にかたくない。

 ホンダeは軽自動車に近いコンパクトサイズでありながら、車重は1.5トン。軽自動車の重量が700キロから1トンなので、1.5倍から2倍ほど重い。BEVの特性の一つとひとことで片付けられてしまうことが多いが、車重が重いということはタイヤへの負担が増すことを意味する。装着タイヤには電費性能や耐摩耗性能の向上が求められ、それらと背反する性能を高いレベルで両立しなければならない。

 ファン・トゥ・ドライブを実現する前後異サイズタイヤの設定が、日常ユースでは前述のネガ要素に強く絡む。タイヤを経済的に使い切るという観点でローテーションは欠かせない。しかし前後異サイズでは方法に限りがある。ホイールアライメント測定を定期的に行い、コンディションを整える必要があるはず。

 あるいは都市型コミューターやセカンドカーとしての利用にもってこいなのだろう。だがBEVが高額であるということを考えると現実的な選択ではなさそうだ。

 その高いポテンシャルが十分に発揮されなかったのは時代との兼ね合いによるのかもしれない。冒頭で発せられた瀬在さんの言葉の意味が乗って触れてわかった。

 

 =瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

瀬在さん
瀬在さん

 モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。

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