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横浜ゴムは3月にプレミアムSUV向けタイヤ「ADVAN V61」(以下、V61)を発売する。同社のSUV用サマータイヤのなかで、中・大型SUV市場でのシェア獲得を狙う。発表した12月25日には神奈川県・大磯で報道陣向けに試乗会を実施。転がり実験では「BluEarth-XT AE61」(以下、BE-XT)と比べて2割ほど距離を伸ばすなど、性能向上を示した。
新車装着タイヤを市販用に
中・大型SUV市場をカバー
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「航続距離に貢献し、快適性を追求したSUV専用プレミアムサマータイヤ」。V61が謳うコンセプトだ。それが真であることは、これまでの実績と性能が証明している。
V61はOE用タイヤとしてこれまでトヨタ自動車のbZ4X/RZやLEXUS RZ、マツダのCX−60/80・CX−90などの国産プレミアムSUVに純正装着されてきた。トヨタからは環境性能・運動性能を高次元に両立したとして技術開発賞を受賞した。今回、そのタイヤをリプレイス用に展開する。
この背景にあるのは、中・大型SUV市場の成長だ。国内の新車販売台数は横ばい傾向にあるが、SUVの販売台数は14年からの約10年で10倍以上に成長。23年は103万台が販売された。この成長をけん引するのは中・大型SUVで、なかでも街乗りにも適したクロスオーバーSUVが伸びる。
プレミアムSUVでカーメーカーがタイヤに求める性能とは何か。横浜ゴムは「航続距離」「操縦安定性」「快適性・静粛性」の三つの性能を挙げる。PHEVやBEVの課題の解決、車高の高さからくるふらつきの抑制、そしてプレミアムSUVならではの品質を確保する。
これを実現するのがV61のミッションだ。同社はV61の発売後は、SUV用サマータイヤのラインアップのなかで中・大型はV61が担い、これまでのBE−XTは小型SUVにターゲットを絞ると言い切る。
高次元でドライ・ウェット両立
AIを駆使し静粛性も向上
カーメーカーが求める三つの性能をどのように実現したのか。
ポイントのひとつは、V61専用の非対称パターンだ。4本の主溝とイン側に配置したナローグルーブで高いウェット性能を発揮する。さらに、センターリブの両側とそのほかのリブのイン側に施した稲妻型の切り込みが水膜を切りエッジ効果を発揮する。溝面積を増加させながらリブの剛性を確保したことで、ウェット性能とハンドリング性能を両立させる。
センターリブでは、3本の高剛性リブで高速走行時での直進安定性を確保。タイヤのアウト側はラグ溝を非貫通とすることで、高剛性のパワーショルダーにしてレーンチェンジ時のふらつき抑制や耐摩耗性能の向上につなげた。
快適性・静粛性の面では、独自のAI利活用フレームワーク「HAICoLab(ハイコラボ)」を活用し、ピッチ配列を最適化。タイヤのブロックが路面をたたく音の周波数ピークを分散させて、パターンノイズの低減に寄与する。AIの活用はプロファイル開発でも行い、本来は相反するウェット性能と低燃費性能の両立を実現させた。
これらに加え、専用コンパウンドや構造面の随所で理想的な性能バランスを追求し、三つの性能の両立を果たすV61が完成した。
転がり実験では距離が20%増
「静粛性」もより高いレベルに
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その性能は試乗会で発揮された。
試乗会では転がり実験、公道での絶対評価、場内路でのスラロームなどを走行する相対評価が実施された。参加者が驚きを見せたのは、BE−XTとV61の転がり実験の比較だ。最初に行ったBE−XTは約55メートル。それに対してV61は約68メートルを記録。20%ほど距離を伸ばした。BE−XTと比較し転がり抵抗の低減は明らかだった。実験したクルマに同乗した参加者は「メーターを見ていて、BE−XTに比べV61はスピードの落ちにくさがはっきりしていた」と語っていた。
この転がり抵抗の低さは、公道でも感じられた。たとえば、下り坂の場合、余分なエネルギーを消費しなくてもアクセルを踏まなくてもクルマはスムーズに走り続ける。このような転がり抵抗の低さは燃費・電費の向上に直結する。
ノイズは車重や路面状況にも左右されるが、公道で走っているぶんには車内での会話が十分に聞きとれる。最近ではクルマ自体の静粛性が高まっていることから、「タイヤに求められるレベルが高まっている」という。それこそが転がり抵抗やノイズ、グリップ力などでの高次元での両立だ。その要求にどう対応するかがタイヤメーカーに課された開発テーマであり、横浜ゴムはV61で応えた。
場内では段差とスラロームを走行。BE−XTとV61を比較すると、たとえば段差ではBE−XTが「目線がずれる」のに対してV61は「若干当たりは強いが、下がった時にズンと落ちる感覚が少ない」。スラロームでもV61のほうが少ない操舵量で曲がるなどの違いが明らかとなった。
V61は国内市販用市場で3月から17サイズを発売する。並行しOEも増やしていく予定。宮本知昭取締役は中計「YX2026」に触れ、消費財事業のなかでAGWの「高付加価値商品を増やしていくことが重要だ」と指摘。このV61は成長する中・大型プレミアムSUVがターゲット。今回のリプレイス投入は「Hockey Stick Growth(うなぎ昇り)」の成長戦略を実現するカギになると言えそうだ。