Talk About Driving  モータージャーナリスト瀬在さんと、ドイツ車に乗りながら(1)

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カテゴリー: レポート, 試乗
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メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルド

 ロングWBのステーションワゴンゆえの特性が意外なところで

メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルド1
メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルド1

 前回まで2回続けて国産BEVのインプレッションを掲載したが、ホンダeと日産LEAFとの間にドイツのブランド2車種に試乗していた。メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン AVANTGARDE(アバンギャルド)ISG搭載モデル(以下、MB・E200SW)とBMW M3 Competition(コンペティション) M xDrive(ドライブ)がそうだ。いずれも都心から高速道路を使い郊外へとクルーズした。

 

 自動車大国、ドイツ。国を代表する名門ブランドが今、厳しい状況に立たされている。フォルクスワーゲンは国内の複数の工場について閉鎖を検討し始めた(24年12月に労使交渉で閉鎖を回避し30年までは工場従業員の雇用は保障されるもよう)。エネルギーや人件費などコストの上昇が事業再編の最大の要因だ。

 もう一つ、足もとの欧州市場で自動車需要が低調推移を続けコロナ禍前の水準まで回復していないことも、それと深いつながりを持つ。欧州メーカー勢は早い段階でEVへのシフトチェンジを標榜した。だが、EV需要は購入助成金の施策を頼みとする側面が強い。そのプログラムが打ち切られた途端、EVの販売は急速に停滞する傾向をみせる。なかでも高価格の欧州メーカーEVはその影響をこうむった。

 一方で、中国製の低価格EVが国内の市場からあふれ出し世界市場へと流入した。その勢いに押され、欧州メーカーのEVはますます苦境に陥るはめとなった。

メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルド2
メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルド2

 「メルセデス・ベンツは21年に、2030年までに新車販売のすべてをEVにするという計画を打ち出しました。しかし24年2月の段階でそれを撤回。30年以降もEVだけでなく、PHEV(プラグインハイブリッド車)やICE(Internal Combustion Engine=内燃機関)搭載車を販売展開することを表明しています」と、瀬在さんが補完してくれた。

 

 EVの需要減退により欧州メーカー勢は戦略の見直しを迫られたが、そうかと言って「マルチパスウェイ」で臨む日本勢も安穏としていられる立場ではない。日本の自動車需要はコロナ禍前の水準に及ばないままだ。自工会調べによる「23年度乗用車用市場動向調査」では、若年層〔クルマ非保有者〕のクルマへの関心度や購入意向は下がり続けている。自分専用のクルマの保有意向は2割弱に過ぎない。

 かつての若者、昭和世代にとってクルマは憧れの存在であり、単なる移動手段ではなかった。自分だけのプレステージカーに乗ることに意味を見いだしていた。本シリーズの今回と次回で登場するようなスポーティモデルは特にそうだった。

 

 MB・E200SWは排気量2.0リットル直列4気筒のエンジンを搭載したICE車。最高出力(EEC)150kW(204ps)/5800rpm、最大トルク(EEC)320N−m/1600-4000rpm。

 インパネにワイドな液晶モニターを配したデジタルディスプレイを採用。シートはレザーで高級感あふれるインテリアデザインだ。

 5人乗りのステーションワゴンで、ホイールベースは2960ミリと長い。車両重量1910kgで、ICE車としては重め。燃料消費率はWLTCモード13.9km/ℓ。つまり、このクルマの装着タイヤにはEV並みに負荷がかかるうえに、スポーティな運動性能と省燃費性能を兼ね備えなければならない。

装着タイヤのミシュランの「e・PRIMACY」
装着タイヤのミシュランの「e・PRIMACY」

 今回の車両はミシュランの「e・PRIMACY(イー・プライマシー)」を装着。メルセデス・ベンツ社から承認を受けた「MO」(メルセデス・オリジナル)マークの刻印が入った新車装着タイヤである。フロント245/45R19 102Y、リア275/40R19 105Yという前後異サイズタイヤの設定だ。

 「e・PRIMACY」は転がり抵抗「AAA」を達成した、ミシュラン史上最高の低燃費性能を誇るコンフォート系プレミアムタイヤ。リプレイス用としては、国内では日本ミシュランタイヤが全53サイズを販売展開している(24年2月のカタログデータ)。

 

 このMB・E200SWのインプレにあたっては、いつもの助手席だけでなく後部座席でもその走りを味わった。というのも、いまどきではマイノリティとなってしまったクルマ好きの理工系大学生(前述の自工会調査で若年層〔クルマ非保有者〕に相当する)を帯同したため。近い将来にクルマ業界への就業にいざなうべく、インターンシップを試みたつもりだ。

 後部シートに身を沈めると、フロントとは乗り味がかなり異なって感じられた。意外と言えば意外。運転席・助手席よりもN・V・Hが強い。広いラゲッジスペース(荷室)を確保するミニバンやハイトワゴンでは後部座席側のほうが振動共鳴音は強く、そのために車内ノイズが大きくなるとは過去から指摘されている点。しかもこのクルマはステーションワゴンでロングホイールベースのため、よりその影響が顕著なのではないか。

 多くのドイツ車が持つ高剛性ボディの特性が、このような形でリアの居室空間で現れているのかもしれない。

 =瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=

瀬在さん
瀬在さん

 モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。

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