走る気持ち良さをタイヤがフルに発揮

前回に続いてドイツブランドのスポーツカーについて。メルセデス・ベンツE200 ステーションワゴン アバンギャルドISG搭載モデル(以下、MB・E200SWと略)の次は、BMW M3 Competition(コンペティション) M xDrive(ドライブ。以下、表記をM3・CMと略)。前回と同様、都心から高速道路を使い街へと駆け抜けた。
M3・CMもMB・E200SWと同様、内燃機関車だ。排気量3.0リットルの直列6気筒DOHCツインターボを搭載する。BMW車のエンジンルームを開けるたびに瀬在さんはいつも「美しい配置だと思いませんか」と感嘆の息を漏らす。贅肉をそぎ落としビルドアップされた筋肉を讃えるのは、モーターアスリート出身に由来する共感に違いないだろう。
最高出力(EEC)375kW(510PS)/6250rpm、最大トルク(EEC)650N−m/2750−5500rpmというハイパワーだ。0−100km/h加速は3.5秒を達成した(欧州仕様車値、BMW社データ)。確かに、発進時のトラクションによるGのかかりかた(Gの受けかた)はBEVのそれとよく似ている。トルクが一気にピークに達する感じだ。
内燃機関のFR(フロントエンジン後輪駆動)スポーツカーは燃費が良いとはお世辞にも言えない。燃料消費率はWLTCモード9.8km/ℓ。市街地モードWLTC−Lの場合6.8km/ℓ。国産ハイブリッド車に乗り慣れると目を疑ってしまう数値かもしれない。

M3・CMの装着タイヤはフロント275/35ZR19 100Y EXTRA LOAD、リア285/30ZR20 99Y EXTRA LOADのミシュラン「PILOT SPORT 4S(パイロット スポーツ フォーエス)」。高性能スポーツカーで多く設定される前後異サイズだ。BMWから承認を受けた証、「★」(スター)マークが刻印されている。
偏平率30シリーズ・20インチというリアタイヤはトレッド幅が広い。接地面はスクエア状で、サーキットでみかけるレーシングタイヤのようなたたずまい。日本ミシュランタイヤが「サーキット走行をも可能にする高いレベルのドライグリップ性能」とうたうのもうなずける。
そんなハイレベルのドライ性能であっても「パイロット スポーツ4S」は低燃費タイヤとして転がり抵抗AまたはB、ウェットグリップ性能aを実現する。ノイズ性能も211サイズ中205サイズが低車外音タイヤに該当する(24年2月のカタログデータ)。ミシュランが開発思想として掲げる〈Total Performance(トータル・パフォーマンス)=すべての性能を妥協しない〉の実現をめざす。「真円性を追求しつくり込んでいるのでしょう」と瀬在さんは付け加える。
外観デザインの向上にも意を払っているのが「パイロット スポーツ4S」の特長。ミシュランマンのイラストとMICHELINのロゴ部分にベルベット状の加工が地紋として施されている。同社が「プレミアムタッチ」と呼ぶ金型技術だ。より深みのあるブラックの部分がコントラストとなり、プレステージカーを美しく演出する。
ステアリングを握る瀬在さんは「M3らしい力強く頼もしい走りです。エンジンの吹き上がりが良く、低速でも軽さがあって、高速ではキビキビと走る。なにより〈キレ〉がある。切れ味が鋭く走る気持ちの良さがあります」と、評価は高い。

前回のMB・E200SWのときに触れたが、欧州車は総じてボディ剛性が高いという。このM3・CMもそうだ。ボディ剛性の高いクルマはステアリングレスポンスが高く、ドライバーのハンドル操作に対し鋭く反応する。微小舵角時やコーナリング時の操縦性が向上するので、ドライバーの意思のとおりに路面をトレースすることが可能となる。
そのような高剛性ボディのクルマに装着されるタイヤについて、瀬在さんは「持てる性能をフルに発揮させてくれる存在ですね。クルマがいくら高い性能であり、ドライバーがこのように走りたいと思っていても、タイヤがそれをきちんと伝えられなかったら、気持ちいいドライブはできません」と指摘する。
かつてクルマは憧れの存在であり、単なる移動手段の一つではなかった。それが今はクルマへの関心度が薄らいでいる。出発地点から目的地へ移動する〈だけ〉なら、手軽な方法を選ぶ。アーリーアダプターが飛びついた、電動キックボードやモペットのさまを見てのとおり。
ただ、クルマの魅力はそれ〈だけ〉にとどまらないはず。ひとにより走りかもしれないし、スタイルなのかもしれない。ドイツ車は確実に、多くの目を注がれる立場だった。だがそんな過去に酔っていても始まらない。

=瀬在仁志(せざい ひとし)さんのプロフィール=
モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員で、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のメンバー。レースドライバーを目指し学生時代からモータースポーツ活動に打ち込む。スーパー耐久ではランサーエボリューションⅧで優勝経験を持つ。国内レースシーンだけでなく、海外での活動も豊富。海外メーカー車のテストドライブ経験は数知れない。レース実戦に裏打ちされたドライビングテクニックと深い知見によるインプレッションに定評がある。