ブリヂストンは2016年2月、AIを搭載した最新鋭のタイヤ成型システム「EXAMATION」(エクサメーション)を彦根工場に実装した。同社が長年培ってきたICT技術をさらに進化させた同システムと、実装されたBIO/BIDとは一体どのようなものなのか。同社のICT革新の歴史に触れながら解説していく。(自動車タイヤ新聞2016年9月21日号から一部を抜粋し編集しています)
ブリヂストンが取り組むFOAとは
ブリヂストンが工場に導入を進めている「Flow Oriented Approach」(FOA)は、同社で20年ほど前に誕生した。ICT時代の幕開けに先駆けて1990年代に標準技術が確立。90年代後半には国内工場への展開が始まり、2000年代には海外工場にも広く拡大している。
これは生産現場でありがちな「データの見える化」をしたが活用に繋がらない状態を解消し、「現場の見える化」を進めていくコンセプトだ。
具体的にはどのような技術なのか。同社では、以下のように説明している。
一般的に情報はあらかじめ用意された「セットメニュー」から選ぶことが多いが、「セットメニュー」以外の情報を得るためには、内容・定義を変更・追加することが必要になるため、新たなニーズや変更に対しては、素早く柔軟な対応が難しい。
これに対して「FOA」は、常に情報をフローしておき、使いたい人が必要なときに必要な情報を自由に取り出して加工する、言わば「回転寿司」のようなシステムだ。情報の活用範囲や対象を選ばないため、応用範囲を広げることができる。
このFOAを活用した例が「Dynamic Action Chart」(DAC)という情報レポートシステムだ。製造現場から経営層まで同じデータで現場の状況を共有するため、現場と経営が直接繋がり、迅速な判断が可能となる。
同社では既にグローバルでネットワークの構築が進み、国内から海外工場の稼働状態を確認することができる。
BIRDからEXAMATIONへ
2005年に導入された「Bridgestone Innovative Rational Development」(BIRD:バード)は、それまで培ってきたFOAを活用した全自動生産システム。部材工程から加硫工程までを直結することで、省スペースでフレキシブルに高精度なタイヤを生産する。
モニタリングと制御にFOAを導入することで、制御を乱すような外的な作用が生じても素早く修正するフィードバック制御と、影響が現れる前に極力抑えるよう修正動作を行うフィードフォワード制御をより高度に連携して運用する。これによって、完全自動化によるスキルレスな生産設備が実現され、さらに高精度な生産が可能となった。
現在、バードは彦根工場のほか、メキシコとハンガリーのタイヤ工場にも導入されている。
一方で、従来型の生産方式、すなわち材料工程から各部材を成型工程に供給し、生タイヤを組み立てる製法を革新するために開発されたのが「エクサメーション」だ。全工程を直結したバードと異なり、自動化する部分を成型機に集中することで、精度と生産効率を両立している。
エクサメーションにもFOAが実装されているが、さらに多くのセンサーを実装して組立制御システムを導入することで、全自動化と高い組立精度を実現している。
具体的には、部材精度や設備動作のセンシング情報をビッグデータに蓄積、解析して、より最適な条件を生み出す「Bridgestone Intelligent Office」(BIO)と、BIOに基づいた高精度な加工制御を行う「Bridgestone Intelligent Device」(BID)がそれぞれ実装されており、従来の人の勘や経験に頼らずにモノづくりができる設備である。
成型工程は人の手が最も介在する部分であり、またタイヤの品質に大きな影響を与える工程でもある。そこでこの部分をAI(人工知能)を搭載した制御システムに置き換えることで、より高い精度の製品をスキルレスに生産し、生産効率を向上することができた。
また、成型工程に機能を絞っているため、既存工場への導入が容易となっている。現在は彦根工場に導入しているが、今後はグローバル展開も検討している。