群馬県の部品商、アライ商会は10年前から本格的にタイヤの取り扱いを開始し、現在も売上を伸ばしている。「タイヤもゴム製のパーツの一つ」と話す新井雄一社長。その販売と在庫管理のテクニックは、大小さまざま多種多様なパーツを取り扱う部品商ならではと言えるものだった。
車体の1パーツとしてのタイヤ
「タイヤ、バッテリー、オイルは消耗品として欠かせない商材。しかしタイヤは保管スペースなどの問題もあり、部品商ではあまり主眼に置いていなかった」。実際に同社でも、販売体制を整える前の販売量は年間わずか4本程度だった。
その後、取り扱いを本格化した初年度こそ販売本数は300本程度だったが、翌年には1000本を達成。順調に販売本数を伸ばし、年間3500本になる現在では同社の売上の約1割を占めるまでになった。
卸しに関しては部品商ならではの背景がある。「整備工場の約8割がタイヤチェンジャーを持っている。しかし現在主流になっているハイインチに機材が対応できないなど、必ずしもすべての工場がタイヤを組み替えはできない」
そこでホイールに組み込み、空気を充填して、ナットのセットまで行って出荷することも多い。冬タイヤでは7割がホイールにセットした状態で販売している。
小売に関しても分解整備以外のほぼすべての修理・補修に対応しており、タイヤ販売はその一環として取り込まれている。
車体の整備用パーツは非常に多く、同社が取り扱う商品だけでも5000種類を超える。タイヤはその部品の一つだ。
「本格化したきっかけは、10年前にトヨタ部品共販がタクティーと協力し、ディーラーに供給するルートでタイヤ販売に力を入れ始めたこと」
そこで同社もタイヤ販売に乗り出したが、3つのネックポイントがあった。仕入れ、在庫確保、そして販売ノウハウだ。
「近くにトヨタ共販の営業所があることで、すべて同時に解決できた。特に在庫に関しては、車で10分の距離にある営業所に助けられた」――トヨタ共販の在庫を自社のデータベースに登録することで、顧客からの問い合わせに即答できる強みを持った。
情報とスピードを重視
同社が最も重視するのがこのスピード感だ。「当社の商品マスターは独自に作成している。サイズを入力すれば、価格、メーカー、在庫が一覧で表示される。さらに一覧からすぐ見積もりを発行、FAXできる」
このデータベースは、小さなものではミリ単位になる部品の在庫を管理するために、なくてはならない物だという。データベースを通して情報を共有し、問い合わせに在庫の有無を即答。5分以内に見積もりを発行することで、迅速な販売に繋げていく。また社内システムでFAXを共有し、問い合わせや発注を一元管理することで、担当者が不在でも対応できるようになっている。
「我々は大体のメーカーの価格や在庫に関するすべてのデータがある。その情報力が一番のアドバンテージ」
新井社長は今後、さらにタイヤ販売本数を伸ばし、基幹事業の一つにしていく考えだ。
「我々はタイヤを車体に使われるゴム製品の一つと捉えている。極小パーツも扱う中で、サイズ的にも在庫管理がしやすい商品と言える」
現在は社内に在庫を置いているため、販売本格化当初よりもさらに顧客対応の速度が上がっていると言う。加えて社員によるサービスの均一化にも気を配っている。
「お客様にとって、いつ来ても同じ対応をしてもらえるということはひとつの価値。そのために、ベテランでも新人でも同じ対応ができるよう、社員がストレスなく働ける環境を目指している」
情報共有によって顧客情報や商品知識の底上げをすることで、接客にかかる個人差を軽減。また、デスクで迅速に作業を完結でき、FAXの送受信や電話の折り返しなどの煩雑さが解消される。
「社員が気持ち良く働くことでお客様が気持ち良く物が買える。これは価格サービスのみに頼らないための強み」――そう話す新井社長は「卸と小売の両面を維持しながら、年間5000本の販売を目指したい」と次の目標を定め、販売の拡大を図っていく。